約 1,746,303 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9375.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十一話「ファントンの贈り物」 健啖宇宙人ファントン星人 肉食地底怪獣ダイゲルン 登場 「ギャアアァァァッ!」 トリスタニアを囲む平原を横切って、一体の巨大怪獣が王都に接近しつつあった。ずんぐりと していながらどっしりとした肉づきの図体で、大きく裂けてかつ発達した顎には鋭い牙がびっしりと 並んでいる。その上よだれをダラダラと垂れ流していた。 トリスタニア外での迎撃を図って出動した魔法衛士隊の一人が怪獣の恐ろしい形相をひと目見て言った。 「あのトラバサミみたいな顎を見て下さい! あいつ絶対肉食ですよ!」 彼の発言の通り、怪獣の正体は肉食地底怪獣ダイゲルンである。腹を空かせばあらゆる生き物に 関係なく食らいつく、恐ろしく獰猛な怪獣だ。このダイゲルンは、進路上にあるトリスタニアに 暮らす大勢の人間を胃袋の中に入れようと狙っているのだった。 「あんな奴が街に入ったら、どんなことになってしまうか分からん。ここより先には一歩たりとも 通してはならんぞ!」 ド・ゼッサールが全隊員に向けて命じた。ダイゲルンが地響きを鳴らして接近してくると、 作戦の開始を合図する。 「火石爆弾用意! 怪獣に放つのだ!」 命令により、数騎の騎士が肩に筒を担ぎながら、ダイゲルンの左右から向かっていく。 筒の中身は、アカデミーのメイジが生成した合成火石。改造ベムスターに食らわせた特製火石を、 あえて火力を落としたものだ。威力を犠牲にする代わりに量を大幅に増しており、怪獣対策会議で この方が戦術的に有効と判断されて作られることとなった。 筒は魔法学院の教師、コルベールの発案による発射装置。筒の中で圧縮した空気を一気に 解き放つことで、その勢いにより火石を発射する。これにより手で投擲するより断然飛距離が 出せるのだ。原理的には、グレネードランチャーに近いものである。 「撃てーッ!」 ゼッサールの合図により、騎士たちは一斉に火石を発射。ダイゲルンに左右から同時に食らわせた。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンの体表の各箇所で爆発が発生。ダイゲルンはバタバタと飛び跳ねて悲鳴を上げる。 「よし、効いてるぞ! 第二陣、攻撃せよ!」 最初の騎士たちが離脱すると、次の筒を担いだ騎士たちが交代してダイゲルンに向かっていく。 ダイゲルンは騎士たちを敵と見なして反撃しようとするも、見た目通りに鈍重なダイゲルンの吐く 火炎はグリフォンには当たらない。騎士たちは対怪獣戦のために散々訓練しているのだ。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンは連続で爆撃を食らい、ジタバタともがく。 「いいぞ! ではそろそろキング砲を……」 ゼッサールがとどめの攻撃を指示しようとしたが、それより早くダイゲルンに動きが見られた。 「ギャアアァァァッ!」 その場で踵を返すと、地面に飛び込むように倒れ、長い爪で土を掘り返していく。そうして あっという間に地中に逃げていった。 ダイゲルンは地底怪獣らしく、地上での動きは遅くとも地中の潜行速度はかなりのものなのであった。 「逃げられたのは残念ですが、防衛には成功しましたね! この戦果には女王陛下にもお喜び いただけるでしょう」 騎士の一人が気を良くしてゼッサールに言ったが、ゼッサールは油断していなかった。 「いや、腹を空かせた肉食獣がそうそう簡単にあきらめるとは思えん。またトリスタニアを 狙って現れることだろう。皆の衆、しばらくは警戒を怠るな!」 ゼッサールの命により、魔法衛士隊はトリスタニア周辺を周回飛行し、ダイゲルン接近の 兆候を見逃さないように警戒を続けた。 ところ変わって、リュリュとグルメンの実験農場のテント。リュリュが昼食の準備をしている間、 ベアトリスたちはあるものを発見していた。 「あら? 何かしら、これ」 見たことのないような異様な物体が、ガラスケースの中に収められて飾られている。赤紫の歪な 球体から突起が生えている、何かの球根に見えなくもない物体だった。 「これも食材の一種なのかしら」 「まさか。とても美味しそうには見えません、殿下」 「削って粉にする調味料ではないでしょうか」 「いえ、新種の肥料ではないかしら」 ベアトリスたちが推理し合っていると、通りかかったリュリュが正解を言った。 「あッ、それはシーピン929と言います。博士の故郷で作られた非常糧食だそうです」 「ええ? これ、ほんとに食べ物だったの?」 シーピン929なる物体をもう一度観察するベアトリス。 「わたしたちの感覚からだと見た目にちょっと難ありですが、博士の故郷の食料不足が深刻化 した時、これでしのいだそうです」 「こんな小さいので?」 シーピン929は小柄なベアトリスでも持ち上げられる程度の大きさだ。 「とてもたくさんの人のお腹を満たせるとは思えないわ。それともいっぱいあるのかしら」 「ああ、それは……」 リュリュが答える前に、ツインテール娘が何の気なしにガラスケースをカパッと開けた。 「わたしたちの舌にも合うのかしら、これ」 「あぁぁぁッ!? 開けちゃダメですッ!」 「へ?」 突然大声を出すリュリュ。何事かとベアトリスたちが思う間もなく……。 シーピン929はずもももも……と膨張を始めてみるみる内に大きくなっていく! 「きゃあああああああああッ!? どうなってるのこれぇぇぇぇ―――――――!?」 思わず絶叫するベアトリスたち。シーピン929は瞬く間に彼女たちの背丈も超えて、どんどん 膨れ上がっていく。 ベアトリスたちはたまらず回れ右した。 「いやあああぁぁぁぁぁッ! 押し潰されるぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」 「ひ、姫殿下ぁぁぁぁッ! お助けをぉぉぉぉぉ――――――――――ッ!」 「あぁッ! エーコが逃げ遅れた!」 「博士ぇーッ! 助けて下さい、博士ぇぇぇーッ!」 テント内はたちまち大パニック。リュリュは必死になってグルメンを呼んだ。 肥大化したシーピン929はグルメンの手によって元の大きさにまで圧縮された。 「なるほど……。大きくなるって訳ね……」 「はい……。説明が遅れて申し訳ありません」 「いえ、勝手に触ったこっちが悪かったわ……」 食事を取りながら、ベアトリスとリュリュは互いに謝り合う。 「放っておいたら際限なく大きくなってしまいますので、取り扱いにはくれぐれもお気を つけて下さいね」 「もう触らないわよ……。それより」 ベアトリスが気を取り直して、皿に盛られた肉料理に目を落とした。リュリュの代用肉で 作られた料理だ。 「これ、ほんとに美味しいわね! 確かに味も本物そっくりで、言われなければ全然気づけないわ!」 「噂は本当でしたね、殿下!」 「お気に召していただけて、ありがとうございます! 料理と食品加工だけは誰にも負けないと 自信があるんですよ!」 さすが料理を生業としているだけあり、美味しいと評価されたリュリュは心の底から嬉しそうであった。 ここでポニーテール娘が言う。 「味ももちろんですが、匂いもまた美味しそうな匂いがしますね。それが味をより一段と引き上げてます」 「あッ、気づかれましたか?」 料理のことになるとちょっと得意げになるリュリュ。 「美食とは舌だけで味わうものではありません。見た目、匂い、噛みごたえなど五感全部が そろって本当に美味しいものが出来上がるのです。そのため、わたしも味の再現だけで満足 せずに研究を重ねて、匂いも本物と限りなく同じになるように仕上がるようにしたんです」 「さすが、こだわってるのね」 リュリュの口振りの熱さから、彼女がこの道に命懸けであることをベアトリスたちはしみじみと感じた。 と、ここで緑髪娘が話題を変えた。 「ところで……そこの博士、貴族が食事をしている場所でぐうすかお眠りなんて、少々失礼では ないでしょうか?」 『うーん、もう食べられへんわぁ……』 彼女たちの後ろでは、先に食事を終えたグルメンが横になって寝言を唱えていた。 やや眉をひそめるベアトリスたちに、リュリュが弁明。 「どうぞご容赦お願いします。あれは博士の民族の風習だそうで」 「風習?」 「はい。博士の民族では食事とは何物にも代えがたいほど神聖なもので、自らが食べた命に感謝し、 摂取した栄養を可能な限り吸収するため、食事後に眠って消化を促すということなんです」 「へぇ。食事が神聖なものねぇ」 関心を寄せるベアトリスたち。言われてみれば、食べるという行為は他の生き物の命を 自分のものとすること。確かに神聖な領域と言える。 普段当たり前のようにものを食べられるので意識していないが、始祖ブリミルの教えにも 食事に感謝をすることとある。それを久々に思い出したベアトリスたちだった。 「それにしても、一人ですごい量を食べたものね」 ベアトリスはグルメンの食事の跡に目を向ける。皿がまさしく山積みになっており、一人で 学院の生徒総数分と同じ量を食べたのではないかと感じてしまうほどだ。 「一度にあんなに食べるんだったら、慢性的な食料不足というのもうなずける話ね」 「あッ、それ、わたしもいつも思ってます」 ほのぼのと談笑するベアトリスとリュリュたち。だがその時! ゴゴゴゴゴゴ……! 「な、何!?」 いきなりテントが激しい揺れに襲われ、ベアトリスたちはギョッと驚いた。 揺れとともに、外から何か異様な騒音が発生する。 「外で何か起きてるみたいです!」 「一体どうしたのかしら……!?」 ベアトリスたちは急いでテントの外に出ると、そこの光景に仰天した。 「な、何あれぇ!?」 何と地表に巨大なヒレのようなものが突き出ていて、しかも地面を割りながら移動しているのだ。 当然、ベアトリスたちはこんな異常なものは見たことがなかった。 「地上に、サメ!?」 「い、いえ! あれは……!」 地面の裂け目が広がり、ヒレの下から更に巨大なものがせり上がってきた。 「ギャアアァァァッ!」 正体は怪獣ダイゲルンであった! 「怪獣だわぁぁぁぁぁッ!?」 悲鳴を上げるベアトリスたち。しかしトリスタニアを襲おうとしていたダイゲルンが、 何故ガリアとの国境付近にいるのか? ダイゲルンは本物のサメよろしく嗅覚が鋭敏で、地上の生物の匂いを嗅ぎ分けて地中から接近する。 そしてリュリュの代用肉が匂いにまでこだわられていることが災いして、ダイゲルンはこっちに 引き寄せられてしまったのだ! 「ギャアアァァァッ!」 地上に巨体を現したダイゲルンはテントの方角、つまりベアトリスたちへと向けてまっすぐに 進み始めた。ベアトリスたちは生命の危機を感じて震え上がった。 「は、早く逃げましょう!」 「はいッ!」 ベアトリスは取り巻き娘たちを引き連れてこの場から離れようとするが……リュリュだけが 戸惑っていて立ちすくんでいる。 「どうしたのよ! 早くしないと食べられちゃうわよ!」 ベアトリスは慌てて彼女を引っ張っていこうとするが、リュリュは困惑しながら言った。 「でも、このテントの農場にはわたしの夢と目標が詰まってるんです! それを捨てて逃げるなんて……」 するとベアトリスがリュリュを説得する。 「あなたが生きてれば農場はまた作れるけど、他の人間には作れないでしょ!? だから あなたは生き延びないと駄目よ! 分かる!?」 ベアトリスの必死の言葉はリュリュの心に響き、彼女はうなずいた。 「は、はい!」 「結構! それじゃあ避難よ!」 リュリュも連れてテントから離れ出す五人。 だがしかし、逃走の途中でリュリュが急に立ち止まった。 「あぁぁッ! いけない!」 「今度はどうしたの!?」 「博士を置いてきました!」 「……あッ!」 グルメンがいないことを思い出すベアトリスたち。当のグルメンは、未だに寝こけていたままだった! このままではグルメンの命がない! 「博士ぇぇぇぇぇぇぇッ!」 リュリュが慌てて引き返そうとするも、ダイゲルンは既にテントの目前。どう考えても 間に合わない! 「あぁッ! 誰か博士を助けて下さぁぁいッ!」 絶叫するリュリュ。 その願いに応えるように、空の彼方からグレンファイヤーが飛んできた! 『ファイヤァァァァァァ―――――――――ッ!』 「ギャアアァァァッ!」 グレンファイヤーはテントの前に着地すると同時にダイゲルンに組みつき、侵攻を食い止めた。 「あれは、ウルティメイトフォースゼロ!」 『うおおおおおおおッ!』 グレンファイヤーは上腕の筋肉をもりもり盛り上がらせて、ダイゲルンを押し返していった。 それによりリュリュたちはテントまで引き返すことが出来た。 「今の内に博士をッ!」 グルメンはこの状況に至っても目を覚まさないので、リュリュたちは仕方なくレビテーションで 運んでいった。 少女たちが避難していく中、グレンファイヤーは抑えつけているダイゲルンと本格的な戦闘を始める。 『うらぁッ!』 四つを組んだままダイゲルンの脇腹を狙って蹴りを仕掛け、一瞬ひるませた隙を突いて 高々と持ち上げ、投げ飛ばした。 『どっせいッ!』 「ギャアアァァァッ!」 固い地面に叩きつけられたダイゲルンだが、まるでへっちゃらとばかりに即座に起き上がると、 姿勢を低くしてグレンファイヤー目掛け突進していく。 『うおぉぉッ!』 ダイゲルンの頭突き攻撃に、グレンファイヤーははね飛ばされてしまう。 『ぐッ、なかなかいいパワーじゃねぇか……!』 ダイゲルンは見た目通りのパワー型怪獣。八方からすさまじい圧力が掛かる地中深くの 環境に耐えられるよう進化した強固なボディから生じる筋力は、グレンファイヤーにも 劣らないレベルであった。 『けどパワー勝負じゃ俺は負けねぇぜ! うおおおおおッ!』 「ギャアアァァァッ!」 グレンファイヤーはダイゲルンに再度飛びかかってボディブローをぶち込んだ。が、ダイゲルンに 効果は薄いようだ。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンは反撃としてグレンファイヤーの身体を蹴り上げる。 『ぐおぅッ!』 うめくグレンファイヤーだが、もう一度拳打を繰り出す。今度は顔面を狙って。 「ギャアアァァァッ!」 だがその拳はダイゲルンに噛みつかれて止められた! 『何ッ!?』 顎の力はダイゲルンの筋力の中で最も強く、グレンファイヤーの手首がギリギリ締め上げられる。 『うぐあぁぁぁぁぁッ!?』 たまらず苦悶の声を発するグレンファイヤー。しかも顎の力だけで身体全体を持ち上げられ、 何度も地面に叩きつけられる。 『うおあああぁぁッ! ぐッ! ぐっはぁッ!』 このままではグレンファイヤーが危ない! しかし、グレンファイヤーは参らなかった。 『こんの食いしん坊野郎が! 俺の炎でも食らいやがれぇぇぇッ!』 胸のファイヤーコアを滾らせると、腕に炎を宿らせて拳を急激に熱していく。 「ギャアアァァァッ!?」 口内を熱せられたダイゲルンはたまらず顎を開いた。 『よぉっしゃあ今だぁぁぁッ!』 この隙を突いて、グレンファイヤーは大技を仕掛ける。 素早くダイゲルンの背後に回り込むと、後ろから相手の身体を抱え上げ、上下逆さにして まっすぐ叩き落とした! 『グレンドライバーだぁぁぁぁぁぁッ!!』 この攻撃が決まり、ダイゲルンは一気に爆散! 『よぉしッ……! やったぜ!』 怪獣を倒し、ベアトリスたちの無事を確認したグレンファイヤーはうなずき、空に飛び上がって 帰還していった。 『いやぁ、お嬢ちゃんたちには助けられてもうたみたいで。迷惑掛けてすまんかったなぁ』 戦いが終わってからやっと目を覚ましたグルメンは、ベアトリスたちに感謝の意を示した。 「ホントにね。一時はもう駄目かと思ったわよ」 『いやぁすまへんすまへん。これはお詫びと感謝の品や。受け取っておくんなまし』 グルメンはリボンで包装された箱をベアトリスに差し出す。 「これは?」 『特別の、とっておきの品やで。みんなで食べてや』 中身は見えないが、グルメンがこう言うからにはとてもいいものなのだろう。ベアトリスは ありがたく受け取った。 「さて、そろそろお暇するわね。今日は色々と勉強できて、来てよかったわ。ありがとう」 帰り際にリュリュと握手するベアトリス。 「こちらこそ、わたしの活動の内容を知っていただけて嬉しいです。またいつでも遊びに 来て下さい。他の学院のお友達をお連れになっても構いません」 「友達……そうね。次に来る時は、素敵な子を連れてくるわ」 ベアトリスの脳裏にティファニアの顔がよぎり、口元に微笑が浮かんだ。 「……ということがあったの」 翌日の学院の教室で、ベアトリスは一連の出来事をティファニアに話していた。ティファニアは 奇想天外な話の連続にいたく感心したようであった。 「そんなことがあったのね……。危ない目にも遭ったみたいだけど、皆が無事で安心した」 「ありがとう。どう? 今の話面白かった?」 「うん、とっても! 世界にはほんとに、わたしの想像を超えるような人がいたと知って ビックリしたわ。一緒にいるウチュウ人の方とも、是非お会いしてみたい!」 ティファニアが関心を持ってくれて、ベアトリスはほっとするとともに嬉しく感じた。 「ええ、ティファニアが良ければ連れていってあげるわ。だから……その……」 ベアトリスは少しもじもじとしながらも、意を決してティファニアに告げた。 「この前のこと、ちゃんと謝ってなかったわね……。ご、ごめんなさい……。それで、こんな わたしでいいのなら……あなたの、お友達になるわ……いえ、させてちょうだい……」 恐る恐る申し出ると……ティファニアはにっこりと笑った。 「うん、ありがとう! そのお返事、ずっと待ってたの」 ティファニアからの返答に、ベアトリスは表情を輝かせた。そんな彼女の様子に、取り巻き 娘たちも安堵してにこにこする。 正式にティファニアと友達になれたベアトリスは、グルメンからの贈り物を彼女に差し出した。 「それで、これはお土産。お友達のあなたに一番に味わってもらいたくて」 「まぁ、食べ物なのね」 「そうみたい。わたしもまだ中身を知らないんだけど、とっておきのものって言ってたから きっとすごく美味しいものよ」 ベアトリスはここで初めて包みを解いて、中身をティファニアに披露する。 が……包装の下から現れたモノに、一瞬言葉を失った。 「……」 包みから出てきたのは……ガラスケースに収められた、シーピン929だった。 「――食べられるかぁッ!」 ベアトリスは思わず床に叩きつけた。パリンとケースが割れる。 「で、殿下ッ! そんなことしたらッ!!」 「あぁッしまったッ!」 ずもももも……とシーピン929は膨張を開始。 「きゃああぁぁぁぁぁ―――――――――――! やってしまったわぁぁぁぁッ!」 「た、助けてぇぇぇぇぇぇッ!」 「せ、先生呼んできてぇぇぇッ!」 情けない悲鳴を上げるベアトリスたち。ティファニアは目を白黒させた。 教室いっぱいにまで膨れ上がったシーピン929は教師陣総出で処分され、ベアトリスたちは こっぴどく怒られる羽目になったのであった。 しかしこの珍騒動が逆にプラスに働いて、他の生徒たちもベアトリスに気さくに接する ようになり、ベアトリスは学院の輪の中に自然と溶け込めるようになったのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9242.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十三話「吸血鬼!くらやみ少女」 吸血魔獣キュラノス 登場 二ヶ月前から吸血鬼の被害に見舞われるようになったサビエラ村。タバサはその吸血鬼を 退治するために派遣された。そしてサビエラ村を中心に強力な負の気配が生じていることを 感知したミラーナイトもまた、サビエラ村の調査をした。その二人の前に現れたのは、 こうもり怪獣バットン! 悪の牙を剥くバットンであったが、見事ミラーナイトが撃破した。 これでサビエラ村は救われた。 そのはずだが……。 「村長さん、その後村の人たちに何か異常はないでしょうか?」 バットンとの戦いから一夜明けたサビエラ村。バットンの血液から作った血清を村人たちに 打って回ったので、もう何の心配もいらないはずなのだが、ミラーとタバサは未だこの村に 留まっていた。未知の怪獣がどんな影響を及ぼしているか分からないので、数日様子を見たい というのが表向きの理由だ。 「はい、村中の者が元気にしておりますじゃ。吸血鬼の脅威が去ったので皆久々に晴れ晴れとした 顔をしてまして……それもこれも、騎士さまとあの巨人のお陰ですな」 「そうですか、それは何よりです。……しかし、後になってからあの怪獣の悪影響が出てくるかもしれません。 やはり私どもは、もうしばらくここに残らせていただきます。よろしいでしょうか?」 「もちろんですじゃ。お忙しいでしょうに、こんな小さな村のためにそこまでしてくださるとは…… まことにありがたいことですじゃ」 村長からの許可を得て、ミラーたちはサビエラ村に留まることが決まった。村の人々は彼らに いたく感謝しており、村長の言った通りに昨日までが嘘のような晴れやかな顔つきをしている。 だがそれとは対照的に、ミラーとタバサの表情はどこか釈然としないものであった。 「……どうして、まだここにいるの?」 タバサが小声でミラーに問いかける。彼はこう答えた。 「恐らく、タバサさんの考えてることと同じですよ。……本当に吸血鬼事件が解決したのか、疑問が残ります」 二人とも、事件の結末には違和感を覚えていた。ミラーがそのことを詳しく語る。 「吸血怪獣は確かに倒しました。しかし三つほど解決してない謎が残ってます。一つは、初めに私が 感じ取った負の気配の正体。あれがあの怪獣のものだったとは思えません。二つめは、怪獣は人の血を 吸って吸血鬼を増やすことを本能としてる種類にも関わらず、この村にはそれらしい人がいなかったこと。 そして最後は……村長さんの宅に侵入された時、何故怪獣は窓ガラスを割ったのかということです」 村に二人目の被害が出てから、村人は誰も夜に出歩かなくなり、家々は固く閉ざされた。 それにも関わらず、吸血鬼は扉も窓も破壊することなく家内に侵入し、犠牲者を出し続けた。 閉ざされた家の中に入り込むには、狭い煙突を通るしかない。 バットンは体長40cmほどの宇宙コウモリに変化することも出来る。その能力なら煙突も楽々 通過できるだろうが……ならば何故村長宅の時もそうしなかった? 村長の家にももちろん 煙突はあるし、あの時封鎖などはされていなかった。それなのにどうして大きな音を立ててまで 窓を割ったのだろうか? 説明がつかない。 ミラーもタバサも、その答えを見つかるためにこの村に留まるのであった。 日が傾き、また夜がやってきた。ミラーたちは村長の厚意で、今晩も彼の屋敷で夕食を預かる。 「うッ、このサラダは何とも苦いですね……」 そのメニューのサラダを口に運んだミラーは、端整な顔立ちを少々歪ませた。特段好き嫌いの ない彼だが、それでも顔をしかめるとはどんなサラダなのか。 給仕の娘が慌てて説明する。 「し、失礼しました。村の名物で、ムラサキヨモギっていうんです。物凄く苦いんですけど、 身体にはよくって……」 「そ、そうでしたか。それではいただくべきですね……」 と言うミラーなのだが、額には脂汗が浮かんでいてどうも手が伸びない。 それとは反対に、タバサはムラサキヨモギのサラダを既に三杯も完食していた。と、その様子を 見ていたエルザがぽつりとつぶやいた。 「ねえおねえちゃん、野菜も生きてるんだよね」 タバサはうなずいた。 「スープの中に入ってたお肉も、焼いた鳥も、全部生きてたんだよね?」 「うん」 「全部殺して食べるんだよね。どうしてそんなことをするの?」 短くタバサは答えた。 「生きるため」 すると、エルザはきょとんとした声で、 「吸血鬼も同じじゃないの? 吸血鬼がにんげんの血を吸うのだって生きるためじゃないの?」 「そう」 「だったら、なんで邪悪だなんて言うの? やってることは同じなのに……」 給仕の女の子は、そんなエルザをたしなめた。 「エルザちゃん、吸血鬼に血を吸われて死んじゃったらイヤでしょう?」 「うん。でも、牛さんだって野菜だって、食べられたらイヤなはずでしょう?」 「お肉やお野菜は、おいしく食べられて幸せなんだよ。わたしたちの身体になるんだから」 「だからそれは、吸血鬼も同じじゃないのってわたし思うの」 給仕の女の子は、言葉に詰まった。 するとエルザは、再びタバサの顔を覗き込んだ。 「ねえおねえちゃん。どうして? なんで人間はよくって、吸血鬼はいけないの? どうして?」 タバサが答えないでいると、代わりというようにミラーが口を開いた。 「確かに、生きるために食べるという点では違いはありませんね。しかし、一つ大きな違いがあります。 それは、吸血鬼の食べる対象は人間という、その一点です」 エルザは親をメイジに殺されて、メイジを嫌って怖がっている。実際、騎士の振りをしているミラーのことも怖がっていた。 そのはずだが、今は何故かミラーがしゃべっていても怯えた様子は見せなかった。 「別に私は、人間というだけで他の生き物とは違う、特別な存在なんだと言うつもりはありません。 しかし、人間は良くも悪くも大きな『感情』と『力』を持ってる生き物。生きるために仕方なく、でも 殺された人の家族や友人は怒りと恨みを抱きます。殺した者への復讐のために『力』を振るうかも しれません。殺される人が多いほど、恨みの『力』は大きく広がっていって、やがて世界中を 壊してしまうかもしれません。それを防ぐために、吸血鬼が人間を殺すのは止めないといけないんですよ」 それは、ミラーたちウルティメイトフォースゼロが怪獣と戦い、人間を守る確かな理由の一つであった。 「……」 その説明を、幼いエルザが理解したかどうかは分からない。しかし彼女は黙ったまま、 それきり何も言わなくなった。 夜がいくらか更けた頃、エルザがタバサの部屋を訪れてこう告げた。 「あ、あの! おねえちゃんに見せたいものがあるの!」 「見せたいもの?」 「うん。おねえちゃんの大好物。この村のおみやげにどうかなって」 タバサはちょっと考え込んだが、うなずいた。 そうして二人は村長の屋敷を離れ、月明かりの夜道を進む。 「こっちこっち」 エルザは無邪気に村はずれの森へとタバサを誘っていく。 柵の切れ目で、タバサは口笛を吹いた。 「口笛? 上手だね」 「魔よけのおまじない」 「夜に口笛を吹いちゃいけないんだよ。えんぎがわるいんだよ」 森の中に、開けたムラサキヨモギの群生地はあった。 「すごいでしょ! こんなにたくさん生えてるの! ほら! ほらほら!」 月明かりの下、楽しそうな声でエルザは駆け回った。 「おねえちゃん、この苦い草、おいしいって食べてたよね! だからいっぱい摘んで!」 タバサは促されるままにしゃがんでムラサキヨモギを摘み始めた。 両手いっぱいにムラサキヨモギを摘んだ頃に、エルザはその耳元に口を寄せた。 「ねえおねえちゃん。ムラサキヨモギの悲鳴が聞こえるよ? いたい、いたいってね」 タバサはムラサキヨモギを放り出し、駆け出した。 エルザは呪文を口にする。 「枝よ。伸びし森の枝よ。彼女の腕をつかみたまえ」 走るタバサを伸びる木の枝がつかみ、タバサは身動きが取れなくなった。“先住”の魔法であった。 「吸血鬼」 タバサがその単語を口にすると、エルザは微笑んだ。その口の端には、白く光る牙が二個、 綺麗に並んでいる。 「そうだよ。吸血鬼は一人だけじゃなかったの。女の子たちの血を吸っていたのもわたし」 「嘘つき」 タバサは枝から離れようともがいたが、杖を持たないメイジはただの人。枝はがっしりと タバサの身体をつかんでいて、とても抜け出せなかった。 「嘘はついてないよ。だって、誰もわたしにお前が吸血鬼ね? なんて聞かなかったもの。 両親がメイジに殺されたのもほんとうよ。わたしの目の前で……。そのあとは一人でとぼとぼと 歩いて旅を続けたの。んーとね、三十年くらい」 妖魔の寿命は人間のそれより遥かに長い。少女に見えても、その知能は少女のそれとは違うのであった。 あらわになったタバサの肌を、愛しそうに少女は舐めあげた。 「おいしそう……、なんて肌が綺麗なの? まるで雪みたい。知ってる? 血が全部なくなると、 もっと白くなるんだよ。わたしが白くしてあげる。もっと綺麗にしてあげる。ねえおねえちゃん。 もう一度質問するわ。おねえちゃんがムラサキヨモギを摘むのと、わたしがこうやって、おねえちゃんの 血を吸うのとどう違うの? 今度はおねえちゃんが答えてね」 エルザの牙がギラリと光った、その瞬間――。 強烈な風が吹いた。烈風がエルザを突き飛ばし、タバサを拘束から助ける。 「な、なに?」 エルザが思わず見上げると、青い鱗がまばゆい風竜が夜空に浮かんでいた。その背の上に、 タバサが乗り移っている。 「風竜? 使い魔?」 烈風の正体はシルフィードだ。この村に来てから、もしもの時のための切り札としてずっと隠していた。 先ほどの口笛で呼び寄せたのだ。エルザはその存在に気づけなかったので、こうして不意を突かれた。 そして口笛に呼ばれたのは、シルフィードだけではなかった。 「タバサさん!」 飛び込んできたミラーがタバサに杖を投げ渡す。タバサはしっかりとキャッチした。 エルザはミラーから、杖を受け取ったタバサへと素早く視線を移した。 「……やっぱり、おねえちゃんの方がメイジだったんだね。嘘つきはおねえちゃんの方じゃない」 その口振りから察するに、エルザはタバサがメイジだと疑っていたようだ。だから夕食の席で ミラーに怯えなくなっていたのか。 だが彼女の視点からでは、タバサがそうだと判ずる材料はなかったはず。何故それに気がついたのか? その答えを大人しく待つという訳にはいかない。先住魔法はメイジの魔法よりも優れているが、 発動する前に先手を取れば倒せないこともない。タバサはエルザがまた魔法を使う前に、氷の槍を飛ばそうとする。 しかしエルザの口から出たのは、意外な言葉であった。 「これはまずいなあ……。おねえちゃんの血を吸ってからにするつもりだったけど、あの人たちの 力を借りるか」 その言葉を合図とするかのように……ムラサキヨモギの群生地を急速に闇が覆い出した。 その「闇」はあまりに不自然だった。月光を侵蝕しながら広がっていく! 「こ、これは……!」 一気に動揺するミラー。彼はこの「闇」が、何かとても恐ろしいものであると直感で理解したのだ。 タバサはエルザに攻撃しようとしたが……エルザはいつの間にか闇の中に紛れて姿をくらましていた。 エルザを目で探すタバサだったが、枝がまたも巻きついてきて、今度はシルフィードもろとも捕まってしまった。 杖も奪い取られてしまう。 「しまった……!」 「つかまえた。あはッ……」 珍しく目に見えて動揺するタバサ。それに伴い、エルザが闇の中から姿を出した。 「……バットンを倒して大人しく帰っていればよかったものを。こうして自ら命を落としに 来ることとなるのです」 彼女とは別に、謎の成年男性が闇の中より出現した。ただものではないことは明白だ。 「何者だッ!」 ミラーが詰問すると、男性はねっとりとした丁寧口調で答えた。 「私はもちろん人間ではありません。こことは別の世界よりいらした夜の神に仕える、美しき夜の種族です。 そちらのエルザとは、半年前に出会ってから協力する仲でしてね。種族は違えども、同じく夜に生きる種族。 仲良くできましょうとも」 「夜の種族……。この小さな村に、まさかこんなにも吸血鬼がいたとはさすがに予想していなかったな」 臨戦態勢を取ろうとするミラーだが……妙に身体に力が湧かないことに内心焦りを覚えていた。 この「闇」……これが力を奪っているかのようだ。 『美しき夜の種族』と名乗る男性は、ミラーたちにサビエラ村の吸血鬼事件の真相を説明する。 「我が神は元の世界で、光に満ちた者に追われてこの世界に迷い込みましてね。神はこの地で 我ら夜の種族を再び繁栄させることを決められました。しかし大きな障害があるので、慎重に事を 運ばなければならない。そう、あなたとそのお仲間たちのことですよ。光の者!」 夜の種族の男は憎々しげにミラーを指差した。 「案の定、我が神が夜の種族を増やそうとされた矢先に、あなたが現れた。それで我が神は 眷属の怪獣をけしかけてやり過ごそうとされましたが、あなたは怪獣を葬ってもここに残った。 それ故、こうして神が直接始末をつけなくてはならなくなったのです」 何と、バットンはその神とかいうものの身代わりでしかなかったという! それでバットンの 行動の謎は解けたが、仮にも怪獣を眷属にするという、夜の種族の神とは何者なのか? 「さぁ、我らが美しき夜の種族の神よ! お出まし下さい! そして光の者を滅ぼしたまえ!」 夜の種族の男の呼び声に応えるかのように、巨大な怪物が闇を破って出現した! 見た目はバットンのようにコウモリ型の巨大怪獣だが、顔の作りや雰囲気はずっと禍々しいものだ。 こいつが真の黒幕だったのか。 その名は吸血魔獣キュラノス! 元はネオフロンティアスペースの怪獣で、血を吸った人間を 眷属の『美しき夜の種族』に変えてしまう、「魔獣」の仇名で恐れられた大変危険な怪獣なのだ! 「キュオォ――――――――!」 闇から現れた魔獣キュラノスは、ゆっくりとミラーへと迫り来る。このままの状態では ミラーはひねり潰されてしまう! 「そうはいかない! 変身……!」 ミラーは鏡の巨人、ミラーナイトへ変身してキュラノスに立ち向かおうとするが……どういう訳か 身体には何の変化が起こらない! どれだけ力を込めても、元のミラーナイトの姿にはなれなかった。 「無駄だ! この闇の中では、光の者であるお前はその力を発揮することが出来ない!」 キュラノスが操る『闇』……それは世の中の憎しみや妬みなどが凝り固まり、出来上がった マイナスエネルギーの塊。その高濃度の負の力の中にいては、ミラーは本来の力を封じられてしまう! エルザがタバサをこの森の中に連れてきたこと自体が罠だったのか! 「くぅッ……! やられた……!」 人間の状態では、とてもキュラノスに立ち向かうのは無理だ! だが『闇』にテレパシーも さえぎられていて、仲間たちの救援を求めることも出来ない状況。ミラーナイト、万事休すか! その一方で、タバサもまたピンチの最中にあった。 「ふふッ……それじゃあ、おねえちゃんの血を吸ってあげるね」 エルザが妖しい笑みを浮かべながら、空中に捕縛したタバサを自分の元へ引き寄せようとする。 「怖がらなくても大丈夫だよ。血を吸っても、死ぬ訳じゃない。美しき夜の種族の力で、 吸血鬼に生まれ変わるだけなんだから。わたしが血を吸った人たちだって、光の者を片づけたら 吸血鬼として蘇らせてあげる。そうして夜の種族の王国を作るの! 素敵でしょう?」 吸血鬼になどなってたまるものか。しかし、枝の拘束は強力で、シルフィードの力でも 振り払うことが出来ない。このままなす術なく、全身の血を抜き取られるしかないのか? ふと、タバサはキュラノスに追い詰められるミラーを一瞥した。そして一瞬の閃きが頭によぎり、 それに従って自分の命運を彼に賭けることにした! まだかろうじて動く片手を、力を振り絞って自分の顔面へと引っ張っていく。そして眼鏡に 指をかけると、上に高く弾いた! 「!?」 クルクルと高く飛んでいく眼鏡。そのレンズがひと筋の月光を反射し……光はミラーへと差し込んだ! 「はッ!? とぅあッ!」 ミラーの判断は実に素早かった。彼も力を振り絞って闇の中から、眼鏡の反射光へと向けて跳び出した! 「何ッ!? しまった!」 夜の種族の男が動揺したが、もう遅かった。 「はぁぁぁぁッ!」 光を浴びたミラーはたちまち変身、巨大化し、闇を突き破ってミラーナイトの巨体を森の 真ん中に降臨させる! その威圧感は、キュラノスにも少しも負けていない! 「キュオォ――――――――!」 タバサの機転のお陰でどうしようもない状況から一発逆転を果たしたミラーナイトに、 キュラノスはひるんでいるように見えた。 『ふッ!』 ミラーナイトは小さなミラーナイフを飛ばし、タバサとシルフィードの拘束を千切った。 自由になったシルフィードが大空へ逃れ、ミラーナイトは彼女たちに親指を立てて感謝の意を示した。 「ああッ! あと少しだったのに!」 タバサに逃げられたエルザは激しく悔しがる。 『吸血鬼よ! 人を襲い、この世を闇に覆わんとするお前たちの野望、許す訳にはいかない! 観念してもらおう!』 ミラーナイトはキュラノスと美しき夜の種族へ啖呵を切る。これから光の刃が闇を切り裂くのだ! ……そのはずなのだが、どういう訳かミラーナイトの変身を許したにも関わらず、夜の種族の 男の顔には余裕があった。 「ふふふ……あの状況から抜け出したのにはいささか驚かされましたが、光の者が変身する この事態を想定していなかった我が神ではないのですよ」 その言葉に驚きを見せるミラーナイト。まさか、自分たちと戦うための何かの切り札を 用意しているのか! 「さぁ、神よ! 我らが憎き敵、光にお見せ下さい! あなたさまの最強の眷属を! そして光を 完全に消し去りたまえぇッ!」 夜の種族の男の求めに応じるかのように、キュラノスが赤い両眼を怪しく輝かせた。 その瞬間、夜空の一部に穴が開いたかと思うと、そこから光球がミラーナイトの背後へと降ってくる。 そしてその光球は、瞬時に異形の大怪獣へと姿を変えた! 「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」 『あの怪獣は……!?』 眼がなく、内側に曲がった角を頭部に生やす爬虫類のような容貌。両肩からは蛇のような 長い首が伸びていて、ガラガラヘビを思わせる尻尾はふたまたに割れている。しかしミラーナイトが 何より驚いたのは、その怪獣から途轍もないパワーとそれに負けぬほど膨大な『悪意』の感情が 感じられたことだ。明らかに普通の怪獣ではない。 この怪獣は星々を渡り歩き、その星のエネルギーを全て食らってしまう凶悪極まりない大怪獣。 惑星ゴールドを始めとしたいくつもの文明を滅ぼしたことから『魔獣』と呼ばれ恐怖されている! その名はガーゴルゴン! このガーゴルゴンの脅威を、ミラーナイトはひと目見ただけで感知した。 『こんな怪獣を味方につけていたとは……! ここまでの事態になるなんて……少し、敵を甘く 見過ぎてたか……!』 二大魔獣に挟まれたミラーナイト。暗黒の魔手に打ち勝つことが出来るのか!? 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9039.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間「ウルティメイトフォースゼロの旅立ち」 帝国機兵レギオノイド(β) 友好珍獣ピグモン 登場 未だ正体の知れない邪悪な何者かの影響によって、怪獣と侵略者の脅威に見舞われるようになったハルケギニア。 それを護りに、遠くの別宇宙からはるばるやってきた光の戦士、ウルトラマンゼロ。そしてアルビオン大陸の戦いで、 彼の仲間である鏡の騎士、ミラーナイトがハルケギニアの地に降り立った。そう、ハルケギニアにやってきたのは ゼロだけでない。彼が結成した、惑星エスメラルダの存在するアナザースペースを守護する宇宙警備隊、 ウルティメイトフォースゼロの面々も一緒であったのだ。 それではここで余談として、ウルティメイトフォースゼロがハルケギニアに来訪する直前のことを語ろう。 『……へッ。久々に団体のお出ましだな』 アナザースペースの一画の小惑星群。その小惑星の一つの上に仁王立ちしているのは、 我らがヒーロー、ウルトラマンゼロ。 そして周囲の小惑星群の上に大勢で陣を張っているのは、両腕がガンポッドになっている 量産型の戦闘ロボット。かつてアナザースペースを震撼させた悪の帝国を築いたベリアルが、 侵略用の兵士として造らせていたレギオノイドの、宇宙戦用タイプだ。 ベリアルの大帝国は、ゼロたちの活躍により既に滅んだ。しかし、その軍団が全滅した訳ではなかった。 今ゼロを取り囲んでいるような残党がしぶとく生き残っていて、ベリアルの怨念に突き動かされるかのように 各所で被害を出し続けているのだ。ウルティメイトフォースゼロは主に、その残党を片づけることで アナザースペースの平和を取り戻す活動をしている。 『ハッ。毎度毎度数頼みの戦いしかしねぇな、こいつら。量産型だからって学習能力が全くない連中だぜ』 さて、その残党に囲まれているゼロなのだが、孤立無援の状況とは裏腹に彼には肩をすくめる余裕すらあった。 それに反応したかどうかは定かではないが、レギオノイドの群れはギギギと駆動音を鳴らしつつ、 ゼロに向けてガンポッドより光線の雨を降り注がせた! 『ハァッ!』 だがゼロは命中の直前で、上へ向けて飛び上がって全弾を回避した。そしてすかさず ゼロスラッガーを両方とも投げ飛ばす。 『ゼアッ!』 超高速で、複雑な軌道を描くゼロスラッガーは、レギオノイドを次々と切り裂いて爆散させる。 『シャッ!』 更に額のランプからエメリウムスラッシュを放ち、これもレギオノイドたちを纏めて吹き飛ばした。 『ゼアアァァァァァァッ!』 とどめのワイドゼロショットを周囲に振り撒き、残った機体を全て爆破する。 ウルトラマンゼロは、すさまじい力を持った強敵との激闘をくぐり抜けてきた歴戦の戦士。 たとえ束になって掛かってこようとも、今更量産型のロボット兵士などに後れを取ったりはしないのだ。 『こいつでフィニッシュだッ!』 ワイドゼロショットが最後の一機を爆破すると、目に見える範囲でレギオノイドはいなくなる。 念のために辺りを探っても、伏兵の気配は感じられなかった。 『よし、この辺に潜んでる奴らは全員片づけたみたいだな。……最近はベリアル帝国の残党も めっきり見かけなくなったな。ま、もう随分な数を倒したんだし、残り少ないんだろうな』 周囲の状況と最近のアナザースペースの環境をそう判断したゼロは、今回のパトロールをこれで終了し、 ウルティメイトフォースゼロの基地へ帰投することにした。 アナザースペースに浮かぶ、一見すると緑色の結晶の芸術品と見間違えるような、巨大な建築物。 それがウルティメイトフォースゼロの本拠地、マイティベースだ。惑星エスメラルダの技術協力により 築かれたもので、外観や内装はウルトラの星の宇宙警備隊本部を参考にしている。 『……よっと! 今帰ったぜ』 「キュイッ! キュイッ!」 マイティベースに帰還したゼロは、40m級の巨体からすると豆粒のような大きさの赤い生命体に出迎えられた。 『おッ、ピグモン! 留守番ご苦労!』 「キュウッ!」 その生き物は、友好珍獣ピグモン。地球では多々良島で初めて存在が観測された、攻撃性を持たない小型の怪獣だ。 元々は死んだ怪獣たちの魂が漂う怪獣墓場で、バット星人の誤算により蘇生された個体なのだが、紆余曲折あって このマイティベースにやってきてゼロたちと同居している。ちなみに名前をつけようとしたことがあったが、 「ピーちゃん」だの「モロボシくん」だのいい名前が思い浮かばず、結局はみんなが好きに呼ぶようになっていた。 『ピグモン、みんなは帰ってるか?』 「キュウ」 ゼロの質問にピグモンがうなずくと、そのすぐ後にゼロの側に、彼と同等の背丈の赤い巨人が飛び出てきた。 『おーうゼロぉ! 随分と遅かったじゃねぇか』 『グレンファイヤー!』 しゃべりながら赤い巨人が髪をかき上げるような仕草をすると、彼の炎を象った頭部から 本物の炎が一瞬燃え上がった。 この巨人は、炎の戦士グレンファイヤー。肩書きと今の行動から見て取れる通り、熱く燃える 炎の力を宿した男である。性格も誰よりも活発な熱血漢だが、お調子者な一面もある。 『今日は久しぶりに集団の相手をしててな』 『なーるほどねぇ。けどそれにしたって時間掛けすぎだぜ? 俺もベリアルの残したオモチャを 纏めてぶっ飛ばしてたが、帰ったのは誰よりも早かったぜ!』 ゼロに対して豪語したグレンファイヤーだが、それに異を唱える者がこの場に現れた。 『グレンファイヤー、虚偽の報告は良くない』 『んなッ!?』 グレンファイヤーを諌めたのは、腰部のバックル型の部品と赤と銀がコントラストをなす 配色が目を引く巨大ロボット。その名もジャンナインである。 ウルティメイトフォースゼロの中では、ジャンナインだけは初期メンバーではない。 ビートスター事件の際に、最初は敵としてゼロたちと戦ったが、後に仲間となった。 そしてその機体の基礎部分には、エスメラルダのロボットであるジャンボットから解析された 技術が使われたため、ジャンボットの弟と見なされている。 『本日の活動で君は、敵との交戦記録が存在しない。よって今の発言は明らかな誤りだ。 訂正を行うべきだと判断する』 淡々と語るジャンナインに、興を削がれたグレンファイヤーはため息を吐く。 『あのねぇナイン……今のは会話を盛り上げるためのジョークって奴だよ。分かる? それにマジになられても困るぜ』 やれやれと首を振るグレンファイヤーだが、ジャンナインは立ちすくんでいる。 『理解不能。ジョークというものが、適切な報告よりも優先すべきものとは考えられない』 その言葉に、グレンファイヤーは更に深いため息を吐いた。 『相変わらず堅苦しい奴だなぁお前……。頭固いとこまで兄貴に似るんじゃないよ全く……』 『無礼者! その言葉、私への侮辱と受け取るぞ!』 グレンファイヤーのひと言で、声を荒げる者が現れた。ジャンナインと同じ巨大ロボットであり、 彼が上で触れたジャンボットだ。 『それに今回の件は貴様の方が悪いのだ! 任務の報告は正確に! 虚偽を挟むなど以ての外だ』 ジャンボットに叱られるグレンファイヤーだが、まるで反省の色が見えなかった。 『は~あ。また始まったよ。これだから焼き鳥は』 『無礼者! 私の名前はジャンボットだと、何度言えば覚えるのだ!』 グレンファイヤーは宇宙船ジャンバードへの変形機能を持つジャンボットが、ジャンバードとなっている時に 初めて出会ったので、そのために「焼き鳥」というあだ名をつけている。しかしジャンボットはそれを気に入っておらず、 呼ばれる度に憤慨するというのが既に定番のやり取りになっている。 『全く、二人ともいつもいつも飽きませんね……』 ギャアギャア騒ぐグレンファイヤーとジャンボットの様子に、最後に場にやってきた 緑色の巨人が呆れ返った。ミラーナイトだ。 リーダーのウルトラマンゼロを始めとして、グレンファイヤー、ジャンナイン、ジャンボット、ミラーナイト。 以上の五人が、アナザースペースの平和を守るウルティメイトフォースゼロのメンバーである。 さて、マイティベースに住まう者たちがそろったところで、グレンファイヤーがこんなことを話題に出す。 『しっかしホント、最近めっきりとベリアル軍の残党どもを見なくなったよなぁ。今日ゼロが倒したので、 もう全部倒したんじゃねぇか?』 『そう判断するのは早計だろう。……とはいえ、残党の頭数も有限。私たちがこれまで倒してきた数を合計すると、 もう推測されるベリアル軍の生き残りの総計に迫っている。全滅間際というのはあながち間違いではないだろう』 その意見にはジャンボットも同意する。 『だろぉ? そんで俺たちは交戦の回数が減ってきてる訳だが……それが毎日のように続くと、 暇でしょうがねぇよな~』 『いけませんよ、グレン。私たちが暇なのが、平和の証拠なのですから。喜びこそすれ、 残念がるものではありません』 ミラーナイトが咎めると、ゼロがピグモンの相手をしつつ相槌を打った。 『その通りだ。俺たちが倒すべき奴がいるということは、一時のエメラナたちやピグモンのような 思いをする人が出てくるってことだ。そんなのはない方がいいに決まってる』 「キュウッキュウッ!」 『まぁそうなんだけどよ~。けど、こうも実戦が少ないと、腕と勘がなまっちまうぜ』 『有機生命体は不便だな。能力の維持に、定期的な鍛錬と経験が必要なのだから』 グレンファイヤーの意見に、ジャンナインがロボットならではの感想を述べた。 そんな風にウルティメイトフォース内で話し合っていると、突然誰のものでもない声が外から響いてきた。 『ふむ。どうやら話を聞く限りでは、これから頼む任務を支障なく引き受けてくれそうだな』 『! その声は……!』 ゼロが真っ先に反応し、マイティベースの出入り口へ振り返る。その彼の目に、赤いマントを羽織った、 ゼロの面影を持つ紅蓮の巨人の姿が映る。 『親父!!』 『ゼロ、元気でやっているようで何よりだ』 その巨人は、地球人ならば知らない者のいないほど有名だ。そしてウルトラマンゼロの父親でもある。 名前は、ウルトラセブン! 『おぉ!? ゼロの親父さんじゃねぇか! ひっさしぶりだなぁ~!』 『しかし、どうしてこちらの宇宙に?』 セブンの登場にはグレンファイヤーたちも驚きを隠せない。そしてジャンボットの疑問は、 ゼロも感じていた。 『親父、一体何の用でこっちに? 任務って言ったが……』 と尋ねると、セブンは早速その件について話し出した。 『そうだ。実はウルティメイトフォースゼロの諸君に、ぜひとも頼みたい用件があるのだ。 それというのは、別の宇宙の防衛』 『別の宇宙だって!?』 ゼロたちが驚愕していると、セブンは詳しく説明する。 『実は先日、宇宙と宇宙の狭間で大規模な次元震が観測された。それだけなら何の問題もなかったのだが、 その震動に乗じて、大いなる邪悪の気配が我々の宇宙から別の次元の宇宙へと移動した痕跡が発見されたのだ』 『大いなる邪悪だって!? そいつの正体は!』 『残念ながら、そこまでは特定できなかった。しかし、このまま放っておいたら、そいつが 侵入した先の宇宙の生命が滅ぼされてしまう恐れがある』 『そうだな……見過ごせねぇぜ』 セブンの言葉で、ゼロは因縁のベリアルやビートスター、バット星人のことを思い出した。 彼らは移動先の宇宙に抵抗するだけの力がなかったのをいいことに、多くの悲劇を起こした。 それを繰り返してはならない。 『それが明らかになった以上、すぐにでも我らウルトラ戦士が派遣されるところだが、一つ問題があった。 向かう先の宇宙の情報が得られないことだ。もしその宇宙にディファレーター光線がなければ、 我らウルトラ戦士はまともに活動できない。そうなっては派遣する意味がない。……しかしゼロ、 お前ならばその問題は解消できる』 『ああ、そうだな。俺にはこのウルティメイトイージスがあるからな』 ゼロはうなずきながら、左腕のウルティメイトブレスレットを見つめた。 実はアナザースペースが、そのウルトラ戦士のエネルギー源となるディファレーター光線の存在しない宇宙なのだ。 初めてやってきた際のゼロもそのために変身回数と活動時間が限られて苦しんだものだが、 神秘のアイテム・ウルティメイトブレスレットを入手してからは、それが光エネルギーを変換して ゼロの力にしてくれるので、問題なく活動が出来るようになった。 『そして他のウルティメイトフォースゼロの面子は、ウルトラ一族じゃないから、エネルギーの心配はない。 つまり俺たちがその任務に打ってつけって訳だな?』 『呑み込みが早くて助かる。ウルティメイトフォースゼロには、別の宇宙の調査と悪の魔の手の排除を依頼したい。 やってくれるか?』 『当たり前だぜ! なぁお前ら!』 ゼロが聞くと、ミラーナイトたちは当然の如くうなずいた。 『ええ。悪の手が及んでいることを聞かされて、黙っている訳にはいきません』 『ちょうど暇を持て余してたしな! そういうのを待ってたんだぜ!』 『別の宇宙のことでも、平和を守るのは姫様の願い。了解した!』 しかし、ここでジャンボットが次のように言う。 『しかし、全員という訳にもいかないな。ベリアル軍の残党が全滅した訳ではないし、 我らの不在を狙って他の悪しき者どもも活動する恐れがある。誰か一人くらいは残らなければ……』 それについては、ジャンナインが名乗り出た。 『ならばその役目は、僕が引き受けよう』 『何ぃ? ナインが? おいおい大丈夫なのかよ』 『僕は宇宙最強のロボットとして造られた。僕の戦闘力なら、留守を守る程度は造作もない』 グレンファイヤーが異を唱えると、ジャンナインは自信過剰なほどに自負した。が、グレンファイヤーは肩をすくめる。 『そういうこと言ってるんじゃないんだよ。お前は常識に疎いだろ? だから一人だけで 何か問題を起こさないかって心配してるの!』 『常識についてグレンに心配されたらおしまいですね』 『え? ミラーちゃん、それどういう意味?』 ミラーナイトがさりげなく毒を吐いていると、ゼロがジャンナインを支持した。 『俺は大丈夫だと思うぜ。ジャンナインも、もう立派に平和と命を愛する心を持ってる。 それがあれば、多少のことなら何の問題もないはずだ』 『そーかぁ? ……まぁお前がリーダーな訳だし、そう思うんだったら従うけどよ』 そういう訳で、ジャンナインをアナザースペースの守護に残し、ゼロたちは別の宇宙へ旅立つこととなった。 それが決まった後で、ふとゼロが問いかける。 『ところで親父、わざわざそれを伝えるためだけにこっちに来たのか? それだけなら、 テレパシーを使うだけで十分だったんじゃないか?』 光の国があるM78スペースとアナザースペースは、ウルトラマンゼロというつながりが出来たことで 距離が縮んだが、それでも別の宇宙間は両者の技術をもってしても移動に大変な労力が必要となる。 故によほどのことでなければ、人の行き来はない。それを気にしていると、セブンはこう答えた。 『ゼロ、私からお前に渡すものがあるのだ。だからこちらに来る許可をもらった』 『渡すものだって? 親父からはブレスレットとかもらったが、まだ何かあるのか』 セブンが差し出したのは、指先に念力で固定されている小箱。その中身は、三色のカプセルだ。 『カプセル怪獣。もしウルトラマンに変身できないような事態に陥った時には、必ず力になってくれる。 私も地球に滞在した時には、何度も世話になった。今回の任務はどれだけの期間が必要になるか分からないから、 持っておいた方がいいと判断した』 『カプセル怪獣、か……。へへッ、親父は相変わらず心配性だな。けど、ありがたく借りておくぜ』 ゼロははにかみながらカプセル怪獣を受け取る。すると、セブンがピグモンのことを見下ろす。 「キュウッ! キュウッ!」 『それがお前の守った命か……。ゼロ、立派なウルトラ戦士として成長したんだな。お前はもう一人じゃない。 たとえこれから何が待ち受けていようと、必ず乗り越えられると信じている!』 『ああ! 俺にはこんなに大切な仲間がいるんだ! 当たり前だぜ!』 セブンの信頼に、ゼロは固くうなずいて応えた。 『では、任務を頼む。成功と幸運を祈っているぞ』 セブンが挨拶を残してからM78スペースへの帰路に着いた後で、ゼロたちも別の宇宙へと 旅立つ準備に取り掛かっていた。 『向かう先の位置情報は、これだけか……。ちょっと不安だが、まぁ何とかなるだろ』 『頼むぜゼロぉ。お前が迷子になったら、俺たちも一緒に迷子になるんだからな』 『グレン、ゼロを信じるんです』 『ではナイン、私たちが不在の間、宇宙の平和とマイティベース、ピグモンのことと頼んだぞ』 『任せてくれ、兄さん。武運を祈る』 マイティベースの外で話し合うと、いよいよゼロたち四人が出発をする。 『それじゃあ行くぜ! はぁッ!』 ゼロが掛け声を上げると、ウルティメイトブレスレットが強く輝き、形を変えて銀色の鎧となり、 ゼロの身体に装着した。 これがブレスレットの本来の姿、ウルティメイトイージス。そしてそれを装着したゼロは ウルティメイトゼロと呼ばれるようになり、単体での次元宇宙の移動が可能となる。 ミラーナイトたちも同時に連れていくことが出来る。 『よぉし行くぜッ! 遅れるなよ! ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤー!』 『ええ! ナイン、行ってきますよ!』 『私からも、お前の武運を祈ってる!』 『ひゃっほーい! ウルティメイトフォースゼロ、出動だぁー!』 ゼロとミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーがジャンナインに見送られて宇宙間の旅に出た。 四人はあっという間に光速を超え、アナザースペースの端へ到達すると、ウルティメイトイージスの力で 宇宙の壁を乗り越える。 『えーっと、目的地の方角は……こっちか……。いや、ちょっとズレてるな……』 『おいゼロ、ホントに大丈夫なのか? 何か不安になるようなことが聞こえてくるんだが』 『ちょっと黙っててくれ。今集中してるんだ』 セブンから受け取った、わずかなデータだけから目的地の座標を計算しているゼロは、 最後尾から尋ねたグレンファイヤーに言い返した。 それから大分の時間を、宇宙間移動に費やす。どれだけ行けども似たような景色が続くので、 グレンファイヤーはすっかり飽き飽きしていた。 『なぁ~まだ到着しないのかよ? 随分遠いなぁオイ』 『ええい、お前という奴は、少しは我慢が出来ないのか!』 ゼロに代わってジャンボットが咎めると、その後でゼロが答える。 『計算上だと、後少しのはずだ。もうちょっとの辛抱……うおッ!?』 その瞬間に、突如として四人を激しい磁気嵐と次元震が襲った。ゼロたちは身体が大いに揺さぶられる。 『こ、これは……次元嵐! 何とも運の悪い……!』 ミラーナイトが思わず吐き捨てる。宇宙と宇宙の境、次元の狭間は、平穏な時ばかりではない。 時々このような災害規模の現象が発生することもある。もっとも広大すぎる超空間で遭遇することは 稀なことなので、ミラーナイトの言う通り、運が悪いとしか言いようがなかった。 次元嵐の勢いはゼロたちでも抗うのが困難なほどであり、ゼロは必死に力を振り絞って前に進む。 だが後ろに続く、ウルティメイトイージス並みのパワーを持たない三人は彼以上に苦しんでおり、 特に最後尾で加護が一番少ないグレンファイヤーは首がガクガク揺れていた。 『お……おわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!?』 そして遂に、グレンファイヤーが嵐に吹き飛ばされ、ゼロの後尾から外れてしまう。 『グレンファイヤー! ぬッ……うおおおおおおッ!』 『ジャンボット!』 振り返ったジャンボットも、気がそれたのが災いして嵐に流される。 『何てこった……ハッ! ミラーナイト!』 ゼロが気づけば、ミラーナイトまでが腕一本だけでゼロのコースにしがみついているありさまになっていた。 咄嗟に助けようとするゼロだが、ミラーナイト本人から止められる。 『いけませんゼロ! ここで余計な労力を使えば、たどり着く前にエネルギー切れを起こしてしまうかもしれません!』 『け……けど……』 『大丈夫です……あなたが無事にたどり着ければ、私たちもそれに引っ張られて到着することは出来ます。 逆に、あなたがたどり着けなければ私たちにも道はありません。あなたが今すべきことは、全力で 私たちのたどる道を作ることです!』 説得したミラーナイトは、もう数秒もこらえていられない状態になっていた。 『頼みましたよ、ゼロ。私たちの道を……!』 『ミラーナイトぉ!!』 その言葉を最後にミラーナイトが吹き飛ばされ、すぐに嵐に呑まれて見えなくなった。 『くそぉ……! すまねぇみんな……! 絶対にお前らが続く道を完成させるからな……!』 一気に一人になってしまったゼロだが、仲間たちの無事を信じて、前へと突き進み続けた。 その甲斐あり、ウルティメイトイージスのエネルギー残量がギリギリというところで光明が見えてくる。 『やった! あそこだ! これでもう大丈夫……うおぉ何だぁ!?』 遂に目的地を発見したゼロだが、その瞬間にいきなり身体が前に引っ張られ出した。 嵐の影響によるものではないのは明白だが、だからと言って力の正体は皆目見当がつかない。 『な、何が起きてるんだ!? 幸いこのまま到着は出来そうだが……』 ウルティメイトイージスのパワーがもうないので抵抗することは出来ないが、力の方向は目的地を向いているので、 特に問題はなさそうだ……と考えたのもつかの間、ゼロは信じられないものを目にすることになる。 『な、何ぃぃぃぃぃ!?』 何と、宇宙と宇宙の間の超空間に、自分と同じように目的地へ向けて飛んでいる、というか 飛ばされている少年の姿がはっきりと見えたのだ。 『こんなところに人間が!? って、このままじゃぶつかる! 何とか回避を!』 その少年との直撃コースにあることを察知したゼロが身をよじろうとしたが、 『うおおぉぉぉぉぉぉ間に合わねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』 結局、ゼロの巨体は小さな少年と正面衝突してしまった。それと同時に、ゼロと少年は超空間を抜けた。 こうして、ウルトラマンゼロと少年、平賀才人はハルケギニアのある宇宙で衝撃的な出会いを果たしたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9190.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十三話「超獣総進撃」 異次元人ヤプール人 異次元人マザロン人 恐怖の超獣軍団 登場 遂にトリステイン・ゲルマニア連合軍はアルビオンの重要都市、シティオブサウスゴータまで歩を進めた。 連合軍はそこで新年の降臨祭を迎えることとなる。様々な想いが古都に行き交う中、降臨祭の始まりを知らせる 花火が上がる。同時にアルビオン軍主力がサウスゴータに迫り、新年早々激戦の気配が漂った。 だがそれは大きすぎる誤りだった! シティオブサウスゴータごと、連合軍及びアルビオン軍は ヤプールの大超獣軍団に取り囲まれてしまったのだ! 人々は、超獣に皆殺しにされるために 浮遊大陸に集められていたのである! これからトリステイン、ゲルマニア、アルビオンの民たちは、ハルケギニア史上類を見ない 地獄の降臨祭を経験することとなる……! 「キィ―――キキキッ!」 異次元空間から街の一等地に直接踏み込んだ大蟻超獣アリブンタは、口から吐く霧状の蟻酸を 高級宿に降りかける。蟻酸といっても超獣アリブンタのそれは、鋼鉄をもドロドロに溶かす強力な殺人液だ。 そしてその宿は、連合軍首脳部が司令部として使っている場所であった。 「うッ、うわぁぁぁぁ――――――――!!」 蟻酸が宿を中の人間もろとも溶かしていく。一部の者はどうにか逃れたが、突然の襲撃であったため、 そうでない者の方が断然多数であった。 そしてド・ポワチエとゲルマニア将軍のハルデンベルグ侯爵もその内に入っていた。 「あああぁぁぁぁぁ……!」 つい先ほどまで意気揚々と戦の指揮を執るつもりであったド・ポワチエが最後に見たものは、 形が崩れ溶かされていく元帥杖であった。 倒れたド・ポワチエたちは肉が全て溶けて落ち、白骨化。その骨もたちまちの内に消えて 染みだけになった。 「ギュウウゥゥゥゥゥ!」 別の場所では、さぼてん超獣サボテンダーが口から赤い舌を伸ばし、連合軍兵士を纏めて数人巻き取った。 「た、助けてくれぇぇぇ―――――!」 兵士たちの命乞いも虚しく、彼らはサボテンダーの口の中へ引きずり込まれてしまった。 「アオ――――――!」 また別の場所では、信号超獣シグナリオンが頭部の球体の一つから赤い光線を放ち、アルビオン軍兵士に浴びせた。 「ぎゃああああああああ! 熱いぃぃぃぃぃッ……!」 赤い光線は強力熱線。兵士たちは一挙に焼き殺される。 また、シグナリオンは青い光線を連合軍兵士に放った。青い光線は血液蒸発光線。食らった者は あっという間に全身の血液を失ってミイラと化した。 更に黄色い光線が両軍の兵士に当てられた。 「うッ、うがあああああ――――――!」 黄色い光線は発狂光線。兵士たちは同士討ち、もしくは平常者に銃撃をして、一層の混乱を引き起こした。 「カァァァァァコッ!」 「ガアオオオオオオ!」 「ギョロオオオオオオ!」 これらは被害のごく一部に過ぎない。怪魚超獣ガランは殺人ガスで人間を跡形もなく分解し、 くの一超獣ユニタングは蜘蛛のような糸で絞め殺し、大蟹超獣キングクラブは眉間からの火炎で 街を焼き払う。シティオブサウスゴータのあちこちで超獣たちが大暴れし、陣営、兵士、民間人に 関係なく人間を虐殺していく。 まさに目を覆わんばかりの地獄絵図。誰がこんな降臨祭がやってくることを想像しただろうか? 古い街には断末魔と怨嗟、嘆きの声が充満する。 『そうだぁ! 苦しめぇ! もっと苦しめ、人間どもぉ! 嘆きのマイナスエネルギーを 我が主に捧げるのだぁーッ!』 大量虐殺を行う超獣たちを指揮しているのは、炎の海の中にそびえ立った地獄の鬼そのものの容姿の 巨大怪人。ギロン人と同じくヤプール人に直接仕える異次元人マザロン人である。この者がナックル星人に代わり、 クロムウェルのふりをしてアルビオン軍を今まで動かし、そして用済みになった彼らもろとも人間を 苦しめながら抹殺しようとしているのだ。 その目的は、ヤプール人の糧となるマイナスエネルギーを人間たちから搾り取ること。 そのために心を操るが同時に恐怖心も失わせる『アンドバリの指輪』は使用せずに、 人々を生きたまま奈落に叩き込んでいるのだ。その容貌に違わぬ、悪鬼羅刹の所業である。 『その調子だマザロン人、超獣軍団よ。機は熟した、最早人間どもを図に乗らせておく必要もなくなった。 一人残らず息の根を止めるのだぁーッ!』 そして大ボスのヤプールが、虚空から手下たちに命令を飛ばす。 なぶり殺しにされる人々の恐怖から生じるマイナスエネルギーで、ヤプールは更に強力になっていく! この生き地獄を止められる者はいないのか!? 「ギギャ――――――アアア!」 「陛下、こちらへ! 立ち止まっていては危険です!」 家屋を次々踏み倒しながら人々を蹴散らす鈍足超獣マッハレスが迫り、アニエスがアンリエッタの手を 引いてどこか安全なところへと逃がそうとしている。だが、今のサウスゴータのどこに安全な場所があろうものか? アンリエッタは逃げながら今の惨状を目の当たりにして、美しい顔を真っ青に染め上げていた。 「ああ、ああ……! わたくしは、何ということをしてしまったのでしょうか……! よもや、 このようなおぞましい事態に民を巻き込んでしまうとは……!」 アルビオン上陸を決定した己の判断を後悔し、絶望するアンリエッタ。それを必死に励ますアニエス。 「陛下、まだ希望は残っております。既に待機させていた空軍がフネを飛ばし、敵の足止めと 人命の救出のために動いているとのこと。まだ全滅と決まった訳ではありません!」 だが、ヤプールはそれを当然の如く許さないのだ。 「グロオオオオオオオオ!」 ミサイル超獣ベロクロン二世が胸を開き、全身の突起を逆立てる。全ての突起からは、 大量のミサイルが一斉発射された! ドゴォォォォ――――――――ンッ! と各地から凄絶な爆音が鳴り渡り、ミサイルの雨あられは港を発った 軍艦を一隻残らず爆破、撃墜する。それどころか飛んでいないフネまでも、アルビオン軍のものも含めて全て爆砕した。 それを目の当たりにした者たちはそろって絶望した。ここは浮遊大陸。フネがなくては、人間は脱出不可能。 つまりアルビオン大陸は、超獣軍団の狩り場と化してしまったのである! それを断固として許さない者たちもいた。ウルティメイトフォースゼロである。 「何ということに……。これ以上の暴挙は許しません!」 「行くぜ! 変身だぁッ!」 ミラーとグレンは超獣軍団が暴れ出してすぐに変身し、大軍勢にも恐れず立ち向かおうとしていたのだった。が……。 「パオ――――――――!」 二人がミラーナイトとグレンファイヤーに変身して飛び出した瞬間、それを待ち受けていたかのように 変身超獣ブロッケンが二本の触手から怪光線を発射し、不意打ちを食らわせたのだった。 『くおおぉぉッ!?』 『ぐわあああああ――――――!』 さしもの二人も、変身直後の無防備な瞬間を狙われてはただでは済まなかった。二人そろって 地面に激しく転倒する。すぐに体勢を立て直そうとしたのだが、 「キャオォ――――――!」 超獣人間コオクスが指先から赤い光を発する。これは生き物の動きを止めてしまう麻痺光線だ! ミラーナイトたちも金縛りに遭ってしまった。 『うぐぅぅぅッ! し、しまった……!』 身動きが取れなくなったミラーナイトとグレンファイヤーに、満月超獣ルナチクスと犀超獣ザイゴンが 容赦なく襲い掛かる! 「ゴオオオオォォォォ!」 「バ―――オバ―――オ!」 ルナチクスは何と眼球を発射して爆弾とし、ミラーナイトを爆発で吹き飛ばす。ザイゴンは自慢の 角による突進でグレンファイヤーをはね飛ばした。 『うわぁぁぁぁぁぁ――――――――――!』 「キャアァ――――――!」 「キョキョキョパキョパキョ!」 「ギギギギギギ!」 倒れ伏す二人を更に、虹超獣カイテイガガン、夢幻超獣ドリームギラス、騒音超獣サウンドギラーが袋叩きにする! 何ということだ! いつもは人々を救うヒーローが、今は逆に悪にねじ伏せられている! 『ミラーナイト、グレンファイヤー、今行くぞッ!』 そこへ天の彼方から、ジャンバードが遅ればせながら駆けつけてくる。追い詰められる ミラーナイトたちを救出する勢いだ。 しかし、そこに大鳩超獣ブラックピジョンと古代超獣カメレキングが差し迫る! ヤプールが命令する。 『ブラックピジョン! 光線を吐けぇー! 吐くんだぁー!』 「ホォ―――!」 ブラックピジョンは口から高熱火炎を吐き出し、ジャンバードに食らわせた! 『ぬおぉッ!?』 「ギ―――!」 バランスを崩したジャンバードを、カメレキングが腹の丸鋸で切りつける! 『ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 ジャンバードは機体から火花を散らし、山の中腹へと落下していってしまった。 ジャンバードまでもが返り討ちにされてしまった! これで残るヒーローはウルトラマンゼロだけだ。だが……! 「……」 才人は超獣たちに追われ、ひたすら逃げ惑う軍隊の姿を、冷めた目でながめるだけであった。 「どこが名誉の戦だよ」 口について出た言葉は、たった一言だけだった。ルイズは、歯を食いしばってうつむいている。 「どいつもこいつも、自分が生き残ることしか考えてない。昨日まで、王軍の勝利万歳だの、 我らの正義は絶対に勝つだの、名誉の戦死を遂げてやる! とか息巻いてた連中がだぜ?」 軍隊は、最早その体を成していなかった。誰も彼もが武器を捨て、なりふり構わず、己が生き残るという 生存本能のままに逃げるばかりだった。その誰もが、市民や慰問隊などの非戦闘員を助けようともしていない。 名誉など、どこにも見られなかった。 そして才人は、その彼らに失望し切っていた。あまりに醜い、人間の姿。自分がこれまで守ってきた 人間たちとは、こんなものだったのか? 自分は何をやってきたのだ? 今の才人には、彼らを助けるために 立ち上がる気力がひとかけらもなかった。 ああ……才人はもう二度とウルトラマンゼロとなって立ち上がることがないのか? そんな時だった……。 「助けてー!」 超感覚による聴力が、聞き覚えのある声を聞き止めた。それは、スカロンの店『魅惑の妖精』亭の 女の子の悲鳴であった。 「!」 才人はようやく顔を上げた。『魅惑の妖精』亭の子が悲鳴を出しているということは、スカロンやジェシカ、 そしてシエスタの身も危ないに違いない。彼女たちは本来戦争には関わりのない者たちであり、大変世話になった、 もしくはなっている人たちだ。 シエスタたちだけは、助けたい。その思いが沸き上がった才人は声の聞こえた方向へ走ろうとしたが、 残念ながら焼け落ちた瓦礫が道をふさいでいて、それは出来なかった。 「……!」 しばし考えた才人は、急にルイズに小箱を押しつけた。カプセル怪獣の箱だ。 「えッ!? サイト!?」 「少し離れる! もしもの時は、そいつらに守ってもらってくれ!」 才人はそれだけ言い残し、街の外れへ向けて駆け出した。 果たして才人は、何をしようとしているのだろうか? 「キョキョキョキョキョキョ!」 『魅惑の妖精』亭の天幕には、タイム超獣ダイダラホーシがその巨体による地響きを轟かせながら 迫りつつあった。しかしシエスタたちの周りは火の手で包まれていて、とても全員そろって逃げられる状況ではなかった。 そのためスカロンは、シエスタは女の子たちへ向けて指示する。 「みんな、怪獣はどうにかわたしが注意を引きつけて時間稼ぎをするわ。その間に逃げてちょうだい」 「そんな!? 伯父さんを犠牲にして逃げるなんて、出来ません!」 この状況で囮になどなったら、助かる見込みなどない。シエスタは反対するが、スカロンは皆を諭す。 「わたしは店長として、伯父として、父として、あなたたちの命を守らなければいけないのよ」 そしてそれ以上の反論を許さずに飛び出していく。 「怪獣! こっちよこっち! 捕まえられるものなら捕まえてごらんなさーい!」 「キョキョキョキョキョキョ!」 だが……ダイダラホーシはスカロンを無視して、シエスタたちの方へ向かっていくではないか! 「ち、ちょっと!? こっちって言ってるじゃない! そんなでかい図体して、ちっぽけなわたし一人 捕まえる自信がないっていうの!? こっち向きなさいッ!」 いくらスカロンが喚こうが、ダイダラホーシは見向きもしない。 恐ろしいことに、ダイダラホーシはスカロンの思惑を見抜き、その上でシエスタたちから先に 殺そうとしているのだ! これほど残酷なことがあるだろうか! これぞヤプールという悪魔の おぞましい所業である! そしてとうとう、シエスタたちが踏み潰される……! 「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 その時である。ダイダラホーシの顔面に、マジックミサイルが炸裂した! 「キョキョキョキョキョキョ!?」 目に爆発を食らったダイダラホーシはさすがにひるみ、よろめいた。そのお陰でシエスタたちは助かる。 しかし、ミサイルは誰が撃ったのか? シエスタが見上げると……ゼロ戦が炎のサウスゴータの空を飛んでいた! 「あれは『竜の羽衣』……!? サイトさん!?」 「シエスタ、みんな……早く逃げてくれ!」 シエスタの叫んだ通り、ゼロ戦を駆るのは才人だ。アイスロンの攻撃で不時着したゼロ戦は 修理を受けたのだが、場所がシティオブサウスゴータに近かったので、軍艦ではなくそちらの倉庫に 運ばれていたのだ。そのお陰で、ゼロ戦は難を逃れていた。そして今、超獣たちを足止めするために 引っ張り出してきたのである。 才人はガンダールヴの能力を駆使し、ゼロ戦のスピードを活かした巧みな操縦で、マッハレスを始めとした 超獣たちを翻弄する。しかし、そんなものがいつまで持つか……飛び出したはいいものの、才人の心の中は 恐れでいっぱいであった。 しかし、ふと地上に目をやって……彼は驚くべき光景を目の当たりにした。 才人に助けられても、周りが火の海でなかなか身動きを取れないでいたシエスタたちだが、いきなり炎が かき分けられて道が切り開かれた。その道を作ったのは、青銅のワルキューレ……ギーシュであった! 「ミスタ・グラモン!?」 「そこな君たち、あっちへ行けばひとまずこの街から脱出できる! 早く、走るんだ!」 ギーシュは己の危険も顧みず、シエスタたちの救出のために駆けつけたのだ。それというのも、 ゼロ戦を駆って単身超獣に立ち向かう才人の姿を目の当たりにしたからである。 彼もまた先ほどまでは、この事態に恐怖し切って我を忘れた哀れな者の一人であった。 しかし才人の勇姿に一番に勇気をもらい、貴族としてすべき本当のことに気がついたのである。 「サイト……きみの頑張りは、ぼくが無駄にはしない。ぼくたちは……友なのだからね!」 シエスタたちを救いながら、大空を飛び交う才人へ向けて、ギーシュはそう告げた。その眼差しには、 確かな輝きが宿っていた。 「諸君! 街の外へは我々第二竜騎士中隊が誘導する! 焦らず、しかし迅速に避難してくれ!」 市民救出に動き出したのはギーシュだけではなかった。風竜に跨って空から逃げ惑う人々の誘導を 始めたのは、ルネ・フォンク率いる少年竜騎士隊。彼らは上陸作戦の際に才人とルイズを守り、 奇跡の生還を果たして才人らと親交を深めた一団である。 そして彼らも、才人の戦う姿に感化されたのだ。 「平民のサイトが頑張っているんだ。貴族のぼくたちが逃げてばかりでいられるものか!」 更にギーシュやルネたちの勇気と希望は、他の貴族や兵士にも伝播していった。 「見ろ! あの若者たちの姿を!」 「私たちを、皆を救おうとしているのか……」 「それなのに、我々は何をしているのか! 少年を働かせながら尻尾を巻いて逃げたとあっては、 末代までの恥だ!」 「ウルトラマンゼロたちは、いつも我らの命を助けるために戦ってくれた。その想いを無碍にすることは、 恥知らずもいいところだ!」 「皆の者、隊を整えよ! 力を合わせ、一人でも多くの命を救うのだ!」 初めは超獣の恐るべき暴力の前に恐怖し切るばかりだったが、一人、また一人と人命救助のために立ち上がる。 空を飛ぶ竜騎士は超獣の気を引きつけ、地上の兵は手分けして女子供から町の外へ逃がし、負傷者を担いでいく。 才人の行動は、図らずも彼らの心に光を灯したのであった。 そしてそれは、連合軍だけではなかった。 「あの飛行機械を中心に、連合軍は救助活動を始めているのか。この地獄のような状況で……!」 アルビオン軍指揮官のホーキンス将軍は、連合軍が勇気を取り戻していく様子を、呆然とながめていた。 彼は歴戦の将軍であり、実際有能な指揮官であった。しかし、全軍が丸ごと国から切り捨てられるという 異常にも程がある事態を前にしては、どうしたらいいのか全く見当がつかず、混乱する哀れな人間の一人に過ぎなかった。 だが……今の光景を目の当たりにして、軍人としての、いや人間としてのあるべき姿を、徐々に思い出してきていた。 そこに、彼に近づいて敬礼する少年が。雪山で才人たちが助けた騎士、ヘンリーであった。 指揮系統が滅茶苦茶になったので、最高指揮官の元に直接来たのだ。 「ホーキンス将軍! 恐れながら、単独行動の許可をお願い致します!」 「単独行動? 何をするつもりだ」 「連合軍に混ざって、救助活動を行いたい所存です!」 ホーキンスは目を見開いた。ヘンリーは続けて話す。 「あの飛行機械を駆るのは、ぼくの命の恩人です。ぼくは貴族として……いえ、一人の人間として、 その恩に報いたいのです。将軍、どうかお願いします」 それを聞いたホーキンスは――。 「いや、救助活動に当たるのは貴官だけではない」 「は……?」 「これより我が軍は、連合軍と協力し、怪獣に襲われている人間全てを救出する! 直ちに伝令を 飛ばして、全軍に伝えよ!」 ホーキンスの下した命令に、周りはギョッと驚く。 「し、将軍、相手は敵ですぞ!?」 問い返した誰かに、ホーキンスははっきりと説いた。 「この惨状を見よ。これが戦と呼べるか? それに皇帝陛下は我々を捨てた。最早敵も味方もないのだ。 その時に軍人がすべきことは……一人でも多くの命を救うことだ」 更に唖然としている部下たちに、毅然とした態度で呼びかける。 「逃げたい者は構わず逃げるとよい。責めることはせん。しかし、真に誇りある軍人であらんと する者は、この私に続けッ!」 「――イエス・サー!」 ほぼ全ての兵士が敬礼を見せ、迅速な行動を開始した。最早混乱はなくなり、秩序が取り戻されていた。 そしてホーキンスは、ヘンリーに告げた。 「礼を言うぞ、若いの。お陰で大切なものを思い出すことが出来た」 「……き、恐縮ですッ!」 指揮官から直々に礼を言われたヘンリーは、緊張でガチガチの敬礼を返した。 「怪獣め! これ以上好きにはさせないぞ!」 「こっちだ! 足元が崩れているから気をつけて進め!」 「しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」 才人の視界の下では、救助活動の輪がもう大分広がり、大勢の兵士たちが老若男女、立場関係なく 命を無慈悲な強奪者から救いつつあった。そしてそれを目の当たりにした才人の心にも……明かりが灯ってきていた。 「みんなが……手に手を取って、助け合っている……!」 才人からは、戦争に来てからの陰鬱とした気持ちが吹き飛んでいた。 そうだ。今まで何をうじうじと悩んでいたのだ。人間は誰しも、一つの顔だけで生きている訳ではない。 醜い攻撃的な一面もあるが、その心から輝きが失われている訳ではない。嫌なものを、受け入れがたいものを 見たからと、それだけで人間を見限るなど浅はかなことだ。 ルイズも、シエスタも、ギーシュも、アンリエッタも、他の大勢の人たちだって……自分の大切な人たち。 初めから、全く変わりのないことだ。自分が忘れていただけのことだ。助けなければ……大切な人たちを守らなければ! 才人の左手のルーンが強く輝き、ゼロ戦の飛行が一層軽やかになった。 恐怖をはねのけ、希望を見出し始めた人間たち。しかしそれを歓迎しない者がいた。 当然、ヤプールだ。 『おのれ! 人間どもが恐怖しなくなった! 忌々しい!』 ヤプールは異次元から、その発端となった才人を見下ろす。 『あのウルトラマンゼロの変身者が原因か! 人間のまま我らの邪魔をしようというのか? 我々への侮辱かッ!』 激しく逆恨みするヤプールは、配下の軍勢に指令を下す。 『超獣ども! あのガキを殺してしまえッ!』 「キャ――――――オォウ!」 「キュウウウウッ!」 「グゴオオオオオオオオ!」 超獣たちが命令通り、才人に狙いをつけ始めた。大蛍超獣ホタルンガ、河童超獣キングカッパー、 古代超獣スフィンクスが溶解液、ロケット弾、火炎放射をゼロ戦に浴びせようとする。 ゼロ戦は波打つように飛行し、集中攻撃からどうにか逃れる。 「くッ、俺を狙ってるのか……!」 必死に攻撃を避けるゼロ戦だが……その主翼にフックが引っ掛かって、動きを止められた! 「うわッ!?」 「キィィ――――――!」 殺し屋超獣バラバの飛ばしたフックロープだ。その周りには吹雪超獣フブギララ、鬼超獣オニデビル、 水瓶超獣アクエリウスが集まってゼロ戦を叩き落とそうとしている。 「くそッ、負けるもんか……!」 どうにかフックを振り払おうとあがく才人なのだが……最強超獣ジャンボキングが両眼から 光線を放つ構えを取っている! 「ギギャアァァァ――――――!」 回避は間に合わない! ゼロ戦はすぐにも木端微塵となるだろう! しかし……! 才人はそれでも諦めないのだ! 「負けるもんかぁぁぁ―――――――!」 最後の瞬間まで抗う覚悟を見せる才人の左腕のブレスレットから……ウルトラゼロアイが飛び出した! 今まで見たことがないくらいに、強く輝いている! 才人はすぐに、ゼロアイを装着した! 「デュワッ!」 ジャンボキングが撃った光線が、ゼロ戦を跡形もなく吹っ飛ばした! 「サイト!」「サイト!?」「サイトぉー!!」 ルイズが、ギーシュが、ルネが、ヘンリーが、アンリエッタが……息を呑んだ! しかし、その時……ゼロ戦の爆破跡から、青と赤の光が飛び立っていた。その光は空を飛び交いながら、 戦士の勇姿となっていく。 ウルトラマンゼロだ! 「ゼロだ! ゼロが来てくれたぞぉー!!」 途端に地上では、大歓声が悲鳴を塗り替えた。絶望の暗黒地獄に、まばゆい希望が遂に駆けつけたのだ! 「ジュワッ!」 ゼロは彼らの声に応えるように、空からエメリウムスラッシュを発射して超獣軍団に先制攻撃を仕掛けた! 「ギャア――――――――!」 エメリウムスラッシュは地底超獣ギタギタンガに命中。たったの一撃で爆散した! 「ホォ―――!」 「ギ―――!」 ブラックピジョンとカメレキングがゼロに迫るが、ゼロは急降下で敵の真ん中に突撃しながら、 熱く燃え上がるウルトラゼロキックの姿勢を取った。 「デェェェヤァァァァァァァァァァァッ!!」 「カアァァァァァァ!」 キックは黒雲超獣レッドジャックを穿ち、爆発四散させる! 『ルナミラクルゼロ!』 着地したゼロは瞬時にルナミラクルゼロに変身、超能力でゼロスラッガーを増やし、ミラーナイトと グレンファイヤーを追い詰めているブロッケンらに向けて飛ばす! 『ミラクルゼロスラッガー!』 「パオ――――――――!」 「キャオォ――――――!」 「キャアァ――――――!」 六枚のスラッガーがブロッケン、コオクス、カイテイガガンを滅多切りにして消滅させた! 「キャア――――オウ!」 獅子奮迅の活躍を見せるゼロに、背後からガス超獣ガスゲゴンが腕のムチを振り回しながら迫っていた。 更に上空からはブラックピジョンとカメレキングが。逃げ場はない! 『ストロングコロナゼロ!』 しかしゼロは高くバク宙しながらストロングコロナゼロに変身し、ガスゲゴンの背後を取り返すと 羽交い絞めに。そのまま天高く投げ飛ばす! 『ウルトラハリケェーンッ!!』 「キャア――――オウ!」 「ホォ―――!」 「ギ―――!」 大竜巻はガスゲゴンのみならずブラックピジョン、カメレキングも巻き込んで、三体を成層圏の 更に上まで飛ばしていく。そこへ向けて、ゼロの破壊光線がうなる! 『ガルネイトォ、バスタァァァ―――――!!』 追撃の灼熱光線がガスゲゴンに突き刺さり、宇宙空間で大爆発。ブラックピジョン、カメレキング もろとも宇宙の塵となった。 今のゼロは、雪山の時とは正反対であった。才人のたぎる闘志と勇気を受けて、これまでとは 比較にならないほどの超パワーで溢れているのだ! 『ヤプールッ! この星をテメェらの好き勝手にしようなんて、二万年早いんだよッ!!』 ビシィッ! と啖呵を切るゼロ! その迫力に、無情な殺戮マシーンであるはずの超獣軍団も たじろいでいるように見えた! しかしボスのヤプールはさすがなもの、今のゼロにもひるみを見せない! 『とうとう現れたなぁ、ウルトラマンゼロッ! 貴様の相手は強化改造を施し、より強力となった バキシマムだぁーッ!』 「ギギャアアアアアアアア!!」 空間を割り、新たな超獣がゼロの正面に出現。それは以前の戦いで逃亡したバキシムが、 より赤く、より強く、より鋭く、そしてより禍々しくなった一角紅蓮超獣バキシマムである! 「ギギャアァァァ――――――!」 『ウルトラマンゼロめぇ、調子に乗るなよ! この大軍団の中心に、お前の墓を立ててくれるわぁッ!』 バキシマムの反対側からは、ジャンボキングとマザロン人が回り込んだ。ゼロは挟み撃ちの状態になる。 それに怒濤の攻撃で八体もの超獣を一気に破ったとはいえ、敵はまだまだ大勢。ゼロは劣勢なのだ。 しかし、今のゼロの勢いはそれすら吹き飛ばしそうだ! 『誰が来ようと俺は、俺たちは負けねぇぜ! 本当の戦いはここからだぁぁぁッ!!』 勇者ゼロが、仲間たちとともに、アルビオン大陸を覆う絶望を打ち壊すために立ち向かう! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9357.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十四話「自然襲来」 友好巨鳥リドリアス 地中怪獣モグルドン 電撃怪獣ボルギルス 古代暴獣ゴルメデ 登場 ……才人がふと気がつくと、いつの間にか自分が懐かしき自分の家にいることを知った。 台所では、母が料理を作っている。自分は、その様子を後ろから見つめている。 「母さん、何を作っているの?」 「あんたの好きな、ハンバーグだよ」 そんな何気ない会話が、何故か胸に突き刺さる。母が振り返る。見慣れた母の顔。どこまでも 優しく、穏やかな母の顔……。 「才人、お前、どうして泣いてるの?」 「あれ?」 才人は目をこする。気づくと、涙が溢れていた。 「変な子だね」 そう言って笑う母の顔が、いつしかタバサの母に変わっていた。才人は驚いて、叫び声を上げた。 「うわぁ!」 才人は自分の叫び声でベッドから飛び起きた。 「夢か……」 脳が覚醒してきた才人は、今の自分の状況を振り返る。アーハンブラ城でタバサを救出したのが 五日ほど前のこと。それからガリアの領土を突っ切り、ゲルマニアのフォン・ツェルプストー領まで 退避することに成功したのだった。懸念されていた道中の敵の追撃は、意外にも一度もなかった。 そして才人は、今の夢のことを分析する。故郷の夢はリシュの事件の際に何度も見せられたが、 あの件はもう終わりを迎えている。またサキュバスの能力によるものではないだろう。それに それ以前に一度だけ、母の夢を見た記憶がある。ヤプール戦後の、瀕死のところをティファニアに 助けてもらって一時的にルイズたちと離れていた時だ。 それ以外に自然に故郷のことを思い出すことは、不思議とほとんどなかった。もう大分長いこと ハルケギニアに滞在しているというのに……。自分は自分で思っていた以上に薄情な人間だったんだろうか、 と才人は一瞬思ってしまった。 フォン・ツェルプストーの屋敷にかくまってもらってから、ルイズはまずアンリエッタの元へと タバサ救出作戦が成功した報告の手紙を送った。しかし自分たちは名目上国家反逆罪。その処罰は 如何なるものが下されるのか。 「でもぼくたちは、ガリアの元王族をトリステイン側に引き入れた形になるんだよ。政治的に 悪い話じゃない。むしろ勲功と言ってもいいくらいだ。差し引きで賞罰なしという落としどころに なるんじゃないかな」 「あのお優しい女王陛下が、理不尽なお裁きをされるはずがないよ。特にルイズ、きみは陛下の ご友人なんだから」 ギーシュとマリコルヌはそんな風に気楽に構えていたが、アンリエッタからの返信を一読した ルイズは、途端に真っ青になったのだった。 返信の手紙には短く、一行だけこう記されていた。『ラ・ヴァリエールで待つ アンリエッタ』。 「あら、よかったじゃない。あなたの実家、すぐ隣じゃない。面倒がなくっていいわね」 キュルケはとぼけた声で言ったが、ルイズはぽつりとつぶやいた。 「実家はまずいわ。わたし、殺されちゃう」 そんなこんなで、ルイズたちはフォン・ツェルプストーからラ・ヴァリエール領へ向けて 出発した。一行の中でだけ、タバサの母親だけは屋敷に残してきている。彼女のことは ミラーナイトたちが交代で警護することになったので、とりあえずは安心していいだろう。 タバサはこっちに同行していた。キュルケは母親と屋敷に残るように勧めたのだが、何故か 頑なに拒んだのだった。 「なぁルイズ。お前、どうしたんだよ?」 道中の馬車の中、ルイズはずっと震えっぱなしだった。そのことを才人たちは不思議そうに 見つめていた。 「アーハンブラ城に乗り込む時より、怖がってるじゃない。そんなに実家に帰るのが嫌なの? 変な子ね」 呆れたようにため息を吐くキュルケ。才人は、ガリアに侵入したことを家族に怒られるのが 怖いのだろうかと思った。 「でもまぁ、取って食われる訳じゃないだろ。こないだ、参戦の許可をもらいに行く時だって、 そんなに怖がってなかっただろ」 「事情が違うわ」 ルイズは、震える声でつぶやいた。 「事情?」 「こないだは参戦の許可をもらいに行ったのよ。“規則”を破った訳じゃないでしょ」 「規則というか、法律を破って怒るのは姫さまや王政府だろ? そりゃ、お前の父さんや 姉さんも怒るだろうけど」 「それどころじゃないわ。わたしの家には、規則を破ることが、死ぬほど嫌いなお方がおられるの」 ルイズは両手で自分を抱きしめ、更にひどく震え始めた。 「な、何だよ! そんなに怖いのかよ! 一体どっちなんだ? お前の父さんか? それとも、 あの姉さんか?」 「か、かかか」 「か?」 「母さまよ」 才人は、ルイズの母親のことを脳裏に蘇らせた。エレオノールに似た感じではあるが、 家族が集まった席では大人しく座っていただけだった。そんなに怖い人物にも思えない。 ……いや、重大なことを忘れていた。その後のシャプレー星人襲撃でのこと。彼女は才人が 他に見たことがないほどの凄まじい風魔法を操り、シャプレー星人を一方的に屠ってギラドラスを 弾き飛ばしたのだった。 その時にルイズが言っていた。母は、先代マンティコア隊隊長“烈風”カリンだと……。 周りもルイズの母が“烈風”だと知るや否や、一気に色めき立った。それほど“烈風”の名は トリステインで有名なのであった。 ルイズは続けて告げる。 「で、当時のマンティコア隊のモットーが、“鋼鉄の規律”なのよ。母さまは、規律違反を 何より嫌っているの」 馬車はいよいよラ・ヴァリエールの城に近づいてきた。城の高い尖塔が見えてくる。 馬車の中はすっかりと重苦しい沈黙に包まれていた。それを破って、才人が口を開く。 「な、なぁルイズ……。お前の母さんが、マンティコア隊の“烈風”殿だとしてもだよ? 三十年も経てば、人間も変わるだろ? 確かに昔は怖い怖い騎士さまだったかもしれないけど、 今はいい年なんだから、そんな無茶しないよ。罰って言ったって、せいぜい納屋に閉じ込める ぐらいだよ」 だがルイズは臨終の床の重病患者のように言った。 「あんたは、分かってないわ。分かりやすく言うと、わたしの母よ。あの人」 その言葉に、馬車の中の全員が緊張した。才人はその空気に耐えられなくなり、大声で笑った。 空元気である。 「あっはっは! そんなに心配するなって!」 「そうそう! いくら伝説の烈風殿だって、今じゃ公爵夫人じゃないか! 雅な社交界で、 戦場の垢や埃もすっかり抜け落ちてしまったに違いないよ!」 ギーシュが唱えた時、急に馬車が停止。同時に馬車に大きな影が覆い被さった。 才人は一瞬、既視感を覚えた。 「ピィ――――――!」 直後に、自分たちの前に青い鳥型の怪獣が着地した。ルイズと才人はその怪獣を知っている。 リドリアスである。 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 更にモグルドン、ボルギルスものっしのっしとこの場に現れた。ルイズたちの到着を知って、 出迎えに来てくれたようだ。 「ひぃぃッ! 怪獣!?」 「あッ、みんな待って! この怪獣たちは危険じゃないのよ」 リドリアスたちのことを知らないギーシュらが震え上がって逃げようとするのを、ルイズが止めた。 才人は先ほどの話の流れも忘れて、馬車から出てリドリアスたちの前に立つ。 「お前ら! 俺たちのことを覚えててくれたのか!」 「ピィ――――――♪」 リドリアスは顔を才人に近づけて甘える。 「あはは、そうかそうか。かわいい奴らだな♪」 「グウワアアアアアア!」 怪獣たちの中にゴルメデも混じってきた。 「お前、あれからここに居ついたんだな」 「サイト君」 リドリアスの背中から、一人の男性が降りてきた。ヤマノ医師……ハルケギニアに流れ着いて、 ラ・ヴァリエールの掛かりつけの医者となったキュリア星人である。 「ヤマノ先生、お久しぶりです! でもどうしてここに?」 「あー、それはだね……これから起こることのために、医者があらかじめいた方がいいだろうと 思って来たんだ。どうにか奥さまより先に到着できたようだ」 その言葉を聞いて、才人はこれから待ち構えていることを思い出して白目を剥いた。 「せ、先生……これから起こることって……!」 ヤマノは才人の問いに答えず、代わりに忠告した。 「いいかね? なるべく姿勢を低くしておくように! ボーッと突っ立っていたら吹き飛ばされて しまうよ!」 「そんな嵐が来るみたいなこと!」 「いかん! 悪いが私は退避させてもらうよ。どうにか怪我を少なく済むようにしてくれ!」 慌てて脇の林の中へ逃げていくヤマノ。四体の怪獣たちも、散り散りになって避難していった。 直後に、馬車道の先から巨大な竜巻がこちらに向かってものすごい勢いで向かってきた。 シャプレー星人やギラドラスに向けられたものと、まるで見劣りしない規模であった。 「ぎゃあああ――――――――――――――――――――ッ!!?」 嵐が来る方がまだマシであった。 才人たちは、“烈風”カリンの苛烈さが実力同様全く衰えていないことを、たっぷりと 思い知らされる結果となった。 しかしルイズの盾となった才人が受け止めた竜巻は、反射的にルイズが唱えたディスペルに よってかき消された。それにカリーヌが驚いて杖を止めた隙にアンリエッタが慌てて仲裁に 入ったことで、彼女の強烈な処罰は終わりを迎えた。 娘への罰としてはあまりに過激なようであったが、ここまでのことがされたという事実があれば、 ルイズたちへの処分に関して異を挟む者が現れることはないだろう。カリーヌはアンリエッタの 顔を立てながら、彼女がルイズたちを不問に処し、それぞれのマントを返すことが出来るように 取り計らったのだった。 そしてルイズが“虚無”の担い手であることが、ディスペルによってとうとう彼女の家族に 知られることとなった。しかしルイズの家族は、それを問題なく受け入れた。ラ・ヴァリエール 公爵などは、アンリエッタがルイズを戦争の道具として扱うならば、長年の忠誠を捨てて国に 反逆するとまで言い切った。それはまさしく、父としてルイズを深く愛しているという証拠であった。 才人はルイズの家族の愛情に感動を覚えるとともに、心のどこかで何かちくりとするものを 感じていた……。 その後、コルベールがアニエスに連れられて一行の無事を確認しにやってきた。彼はどうにか アニエスと和解できたようだ。結果的に何もかもが上手く行って、万々歳であった。 ……しかし、才人は心のどこかにかすかなしこりを残したまま、夜間にヤマノの医務室で カリーヌから受けた傷の上に巻いた包帯を交換してもらっていた。 「あいっだだだ……!」 「大丈夫かい? いやしかし、ひどい傷だな。奥さまも無茶をなさる」 ヤマノが包帯を取り外し、看護服姿の少女の持つ盆に乗せた。……使用人だとしても大分 幼い見た目の少女である。 「ヤマノ先生、その子は?」 「ああ、彼女はエルザ。色々あって、私の助手をしてもらってるんだ。言っておくと、エルザは 人間とは異なる種族で、私同様見た目通りの年齢ではないよ」 とヤマノは紹介した。その少女エルザは、受け取った血がにじむ包帯を見下ろし、次いで 才人の身体の傷痕に視線を移した。 「血……」 ゆっくりと才人に近づこうとしたエルザを、ヤマノが制した。 「やめなさい、エルザ」 「舐めるだけでも……」 「駄目だ。彼は怪我人だ。分かるね? 必要な分はちゃんと与えてるだろう」 才人はこのやり取りに冷や汗を垂らした。エルザという少女、一体どういう種族なんだろうか。 そんなことをしていたら医務室の扉がノックされ、カトレアが中に入ってきた。 「ヤマノ先生、ルイズのナイトくんの容態はどうでしょうか」 「カトレアお嬢さま」 「か、カトレアさん」 才人はカトレアと間近に向き合ってドギマギした。ルイズから険しさを抜いて成長させたような、 全身から包容力を醸し出している彼女は才人の好みを直撃するので、不意に目の前に現れられると 息が詰まりそうになるのだ。 「傷は完全には塞がってませんが、全て急所は外してます。しばらくはところどころ痛む でしょうが、生活する分には何ら問題はありませんね」 「よかったわ。ごめんなさいね、母さまが手荒なことをしちゃって。悪い人ではないのだけど、 ちょっと融通が利かないお人なのよ」 謝るカトレアに、才人は愛想笑いを浮かべた。 「ルイズのお母さんですから。仕方ないですよ」 カトレアもあはは、と笑い、椅子に腰を下ろして才人に話しかけてくる。 「あれから、色々大変だったんでしょう。アルビオンでは、随分と危険な目に遭われたとか。 わたし、随分心配したのよ。あなたとルイズのこと」 才人はカトレアたちに、屋敷に参戦の許可をもらいに来てからのことをざっと説明した。 戦争のことや、行方不明になったこと、タバサを助け出す冒険のことにカトレアたちは驚き、 感心し、才人の活躍を褒めたたえた。 才人はそんな風にカトレアと話していると、ふと母親のことを思い出した。先ほどルイズの 家族の時も、かすかに地球の母のことが頭によぎったが、今は母の記憶がどんどんと脳裏に 膨らんできて、いつの間にか押し黙っていた。 「どうしたの?」 カトレアに尋ねられると、才人は慌ててごまかす。 「ご、ごめんなさい! 何でもないです!」 「そんな顔はしてなかったわ。どうしたの? 話してごらんなさいな」 「何か悩み事でもあるのかな。他言なんてしないから、私たちに打ち明けてみたらどうだい? 抱え込んで精神を弱らせたら、傷の治りも悪くなってしまうよ」 カトレアとヤマノの勧めにより、才人は母のことを考えていたことを話すことにした。 「……どうして、どうして思い出すんですかね。こっちに来てから、あんまり思い出したり しなかったのに。変だな。ずっと忘れてたのに、どうして今になって思い出すんだろう」 「あんまり、ということは、前にも思い出したことはあったのかい?」 ヤマノの聞き返しに、才人はうなずく。 「さっき言った、アルビオンで行方不明になってた時に。でもそれからはずっと思い返した ことはなかったのに。まぁあれこれと毎日のように忙しかったというのもあるんですが…… 今も、安心して気が緩んだからでしょうかね」 「ふむ……」 才人の告白に、ヤマノは腕を組んで考え込む。 「望郷の念は、人間として自然な感情だ。むしろ、故郷を懐かしく思わない方が自然ではないさ。 君もこっちに来てから長いんだろう? 別におかしなことではないさ」 「はぁ……まぁ、そうかもしれませんね」 「と言うより、今日までで一度二度くらいしか故郷のことを意識しなかったというのがいささか 妙ではあるね。君くらいの年頃なら、もっと思い出してもいいくらいだろう」 ヤマノの言葉に、カトレアが告げる。 「きっと、抑えられていたんだと思いますわ」 「抑えられていた?」 尋ね返す才人。 「ええ。人間の心ってよく出来ていてね、何かつらいことや、とんでもないことが起こると 鍵が掛かっちゃうの。おかしくならないためにね」 「……」 「きっと、いきなり別の世界に連れてこられて、心がびっくりしたんだわ。で、故郷のことを なるべく思い出さないように鍵が掛かってしまったのね。でも、何かきっかけがあったのね。 心の鍵を外すきっかけが……」 カトレアの言葉に、才人はタバサの母とのやり取り、ルイズの両親との絆を目にして、 内心抑え込まれていた想いが蘇ったんだろうと感じた。アルビオンでの時も、子供たちと 家族のように暮らすティファニアの様子に触発されたのだと判断する。 才人はあらためて、地球に残している自分の家族のことを意識し、表情を曇らせた。それを察した カトレアは、才人に申し出た。 「つらい時は、いつでもわたしに甘えていいのよ。お母さんの代わりは無理だけど、わたしが お姉さんになってあげるから」 「あ、ありがとうございます」 カトレアの温情に才人は照れくさく感じながらも、重くなっていた心が明るくなっていくのを 感じ取った。 「でも、今は甘えてばかりはいられません。ルイズの力を……あの“虚無”を狙っている奴が いるんです。そいつはタバサとそのお母さんにもひどいことをした。そいつをやっつけて ルイズを守り抜くまでは、俺はしっかりしてないと」 才人は心に使命感を滾らせてそう言った。カトレアは才人を軽く抱きしめて、言い聞かせる。 「無理はしないでね。わたし、あなたやルイズが無事でいてくれれば、他に何も望まないわ」 「カトレアさん……」 ゆったりとカトレアのぬくもりを肌で感じていた才人だが……いきなりヤマノが目を見開いて 席を立った。 「ヤマノ先生? 急に怖い顔をしてどうしたの?」 「……遠くから、何か不吉な気配を感じました」 窓を開け放つヤマノ。見れば、エルザも何やら警戒しているような、怯えているような 様子をしている。 「精霊の動きがおかしい……。精霊の声が、変に歪んでいく……!」 才人は彼らの反応に危機感を抱くと、カトレアから離れてヤマノとともに窓から夜空の果てを 見つめた。そうして、空に異常があるのを確かめて驚く。 「! 黒い雲が……いや、台風がこっちに近づいてくる!」 ラ・ヴァリエール領の風景の空の雲が急激に渦巻いていき、風が猛烈に吹き荒れる。丸きり 台風の予兆であった。しかし、季節はまだ春を迎えようとしている頃合い。そんな時期に、 あんな大きな台風が発生するものだろうか。 そして強風と同時に、医務室内の気温が異様な勢いで上昇していくのを感じた。どうやら熱波が、 台風と同じ方角から押し寄せているようなのだ。 「あッ……!」 「カトレアお嬢さま!」 身体の弱いカトレアが、急な熱波に当てられてよろめいた。ヤマノが咄嗟に彼女を抱き止めて支える。 「どうなってるんだ……。異常気象か? いや、それにしたって異常すぎるぜ……」 更に才人の視線の先で、もっと異常な事態が起こり始めた。 領地の雄大な森から、更に巨大な木々が目に見えるほどの速度で生えていき、既存の木々を 呑み込むようにしながら成長していくのだ。まるで別の森が、元あった森を侵蝕しているようであった。 「な、何だありゃ!」 才人は驚愕するとともに、今起きていることが自然現象などではないことを確信した。 何かの力の作用により、異常事態は人為的に引き起こされていると。 「ピィ――――――!」 「ピュ―――――イ!」 「グイイイイイイイイ!」 「グウワアアアアアア!」 外からリドリアス、モグルドン、ボルギルス、ゴルメデの咆哮が聞こえてきた。それらには、 明確な警戒と恐怖の色が表れていた。 台風と熱波と異常な森が、ぐんぐんとラ・ヴァリエールの城へと押し寄せてきた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9001.html
「ウルトラマンゼロ」シリーズより「ウルトラマンゼロ」を召喚(変身者は才人) プロローグ 第一話「ハルケギニアゼロ作戦第一号」 第二話「これがウルトラの歴史だ!」 第三話「姿なき脅威」 第四話「盗まれたウルトラゼロアイ」 第五話「魔法学院の青い石(前編)」 第六話「魔法学院の青い石(後編)」 第七話「王女の来訪」 第八話「陰謀襲来」 第九話「泥まみれ少年ひとり」 第十話「火山怪鳥ゼロに迫る!」 第十一話「ゼロ暗殺計画」 第十二話「ウルトラマンゼロ朝焼けに死す」 第十三話「ミラーナイト参上!」 幕間「ウルティメイトフォースゼロの旅立ち」 第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」 第十五話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(後編)」 第十六話「SOSタルブ村」 第十七話「タルブ村の宝物」 第十八話「空飛ぶジャンボット」 第十九話「ナックル星人の逆襲」 第二十話「目覚めよルイズ」 第二十一話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(前編)」 第二十二話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(後編)」 第二十三話「ラグドリアン湖のひみつ(前編)」 第二十四話「ラグドリアン湖のひみつ(後編)」 第二十五話「トリステイン全滅!円盤は生物だった!」 第二十六話「逆転!グレンファイヤー只今参上」 幕間その二「セーラー服騒動のゼロ」 第二十七話「狙われた少女」 第二十八話「その名は春奈」 第二十九話「宇宙人連合の罠」 第三十話 「ダダVSギギ」 第三十一話「体温3000度の対決」 第三十二話「爆弾魔星人」 第三十三話「マグマ星人の復讐」 第三十四話「凶刃の侵略者」 第三十五話「故郷のない女」 第三十六話「怪しい職人」 第三十七話「ゼロが死ぬ時!トリステインは壊滅する!」 第三十八話「狙われない少女」 第三十九話「無敵の春奈」 幕間その三「春奈と光の国」 第四十話 「チュレンヌの繭(前編)」 第四十一話「チュレンヌの繭(後編)」 第四十二話「シャルロットひとり旅」 第四十三話「ファルマガンとタバサ」 第四十四話「怪獣パンドンの復讐」 第四十五話「全滅!ウルティメイトフォースゼロ」 第四十六話「トリスタニアの奇跡」 第四十七話「潜入者Xを倒せ(前編)」 第四十八話「潜入者Xを倒せ(後編)」 第四十九話「秘密文書への挑戦」 第五十話 「白炎の超獣地獄」 第五十一話「脅威のカブトザキラー」 第五十二話「ある教師の墓標」 幕間その四「開戦前夜」 第五十三話「コスモスペースから来た男女」 第五十四話「共生の空」 第五十五話「空間X出現」 第五十六話「異次元の三人」 第五十七話「飛べ!ダイナ」 第五十八話「軍港SOS」 第五十九話「果てしなき復讐」 第六十話 「疑心の雪山(前編)」 第六十一話「疑心の雪山(後編)」 第六十二話「悪鬼ヤプール」 第六十三話「超獣総進撃」 第六十四話「死刑!ウルティメイトフォースゼロ」 第六十五話「銀河に散った二つの星」 幕間その五「その時ウルトラセブンは」 第六十六話「よみがえれ才人」 第六十七話「ハーフエルフの娘」 第六十八話「恋するレギュラン」 第六十九話「あっ!ドラゴンもグリフォンも氷になった!!」 第七十話 「アルビオン氷河期」 第七十一話「美しい人間の意地」 第七十二話「吸血寒村」 第七十三話「吸血鬼!くらやみ少女」 第七十四話「闇をけちらせ」 第七十五話「怪談・ミノタウロス」 第七十六話「黒い牛の呪い」 第七十七話「風の竜のともだち(前編)」 第七十八話「風の竜のともだち(後編)」 幕間その六「父と師匠」 第七十九話「少年シュヴァリエ」 第八十話 「君がウルトラマンゼロだ」 第八十一話「ウルトラマン高校生」 第八十二話「ハルケギニアの剣豪」 第八十三話「才人の秘密」 第八十四話「再会の姫」 第八十五話「泣くな失恋怪獣」 第八十六話「怪獣は動く」 第八十七話「怪獣よ地底へ帰れ!」 第八十八話「よみがえったミスコン」 第八十九話「地下に眠る少女」 第九十話 「ハイスクール危機一髪!」 第九十一話「GO!! 地底の決死圏」 第九十二話「吸血ボール学園襲来!!」 第九十三話「傷だらけの舞踏会」 第九十四話「誰かが作ってしまった怪獣」 第九十五話「悪魔の住む学院」 第九十六話「激ファイト!ゼロvsウルトラセブン」 第九十七話「双月の夜に怪獣が踊る」 第九十八話「恐れていたレッドキングの出現報告」 第九十九話「故郷の夢」 第百話 「怪獣100匹!増殖計画」 第百一話 「迷宮のルイズ」 第百二話 「閉ざされた夢幻」 第百三話 「ゼロ最大のピンチ!変身!ウルトラマン80」 第百四話 「うたかたのリシュ」 幕間その七「80の目覚め」 第百五話 「魅入られた少女」 第百六話 「暗王からの使い」 第百七話 「ガリア狂奏曲」 第百八話 「MONEY DREAM」 第百九話 「GOODLESS」 第百十話 「その名は“邪悪”」 第百十一話「永遠なるイーヴァルディ」 第百十二話「あなたは……だれ?(前編)」 第百十三話「あなたは……だれ?(後編)」 第百十四話「自然襲来」 第百十五話「決戦!怪獣対マシーン」 第百十六話「弄ぶ眼」 第百十七話「才人よ再び」 幕間その八「ウルトラマンだった男たち」 第百十八話「シエスタの恋」 第百十九話「こいびとは怪獣」 第百二十話「ベアトリス南へ!」 第百二十一話「ファントンの贈り物」 第百二十二話「侵入する死者たち」 第百二十三話「夜があけたら」 第百二十四話「近海の怒り」 第百二十五話「バルキー大逆襲」 第百二十六話「輝け!ウルティメイトフォースゼロ」 第百二十七話「王立図書館の恐怖」 第百二十八話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その1)」 第百二十九話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その2)」 第百三十話 「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その3)」 幕間その九「学院の仲間たち」 第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その1)」 第百三十二話「二冊目『わたしは地球人』(その2)」 第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」 第百三十四話「三冊目『ウルトラマン物語』(その1)」 第百三十五話「三冊目『ウルトラマン物語』(その2)」 第百三十六話「三冊目『ウルトラマン物語』(その3)」 第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」 第百三十八話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その2)」 第百三十九話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その3)」 第百四十話 「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その1)」 第百四十一話「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その2)」 第百四十二話「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その3)」 第百四十三話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その1)」 第百四十四話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その2)」 第百四十五話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その3)」 第百四十六話「七冊目の世界」 第百四十七話「決闘!ウルトラマンゼロ対悪のウルトラ戦士」 第百四十八話「ウルトラヒーロー勝利の時」 第百四十九話「ロマリアの夜に」 第百五十話 「悪魔の復讐」 第百五十一話「ブリミルの贈り物」 第百五十二話「ハルケギニアの神話」 第百五十三話「悪魔の脅迫」 第百五十四話「闇が来る」 第百五十五話「暗黒の化身」 第百五十六話「輝ける明日へ」 幕間その十「歴史の真実と謎」 第百五十七話「カルカソンヌの夜」 第百五十八話「悪夢の四重奏」 第百五十九話「破滅降臨」 第百六十話 「ガリアの叫び」 第百六十一話「ガリア王国の大決戦」 第百六十二話「ハルケギニアはウルトラマンの星」 第百六十三話「ド・オルニエールへようこそ」 第百六十四話「穏やかなるバオーン」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6108.html
前ページ次ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞) 「信じらんない! なんで私の下着なんか待ち歩いてんのよっ!!! あんた頭おかしいんじゃないの!?」 部屋に戻るとルイズの叱責が始まった。エイジは頭を下げたまま黙って聞いている。 「その分だと……私の上着とかも持ってそうね!!」 「……これのことで?」 エイジの手にはルイズのネグリジェがあった。よりによって彼女のお気に入りのものだった。 「この腐れド変態がッ………」 ルイズは握り拳をわなわなとふるわせて思いっきりエイジの顔を殴った。 エイジはよけることなくそれを受けた。鼻から少しだけ血が出た。 「お嬢さん誤解です。これは好きでもっている訳じゃあありやせん。」 エイジは言い訳を始めた。さっきのルイズの下着も好きでもっている訳ではないらしい。 「自分の"萌"属性にはMPというのが存在しやす。MPというのは、魔法使うための水がめのようなものでありやす。 そのMPを補給するには"萌えグッズ"からパワーをもらって回復しなければなりやせん。 更に、そのMPを回復する"萌えグッズ"は全員が共通するとは限りやせん。」 「……つまり、エイジにとってそれは"萌えグッズ"だったとしても他の魔法使いにはそれが通用しない場合もある…って事?」 「おっしゃるとおりでありやす。 あと、"萌えグッズ"の他にも相手がその魔法使いに対して"萌え"の感情を抱いたらその思念もMPに吸収することが出来ます」 「まああんたにはそれは無理だろうけどね。あんな気持ち悪い格好じゃ」 ピシッと音がしたような気がした。そしてルイズは好奇心でこんな質問をした。 「ねえ……あんたの"萌えグッズ"ってどんなものなの?」 「え」 「ねえ、ちょっと見せなさいよ。それとも何? 何かやましいものでもあるの?」 「そっ、そんなものは だっ、断じてありやっせんっ!!!」 ルイズがエイジの懐に手を入れようとするとエイジは急に慌てだした。 「あるんでしょ」 「ありやせん!」 「あるんでしょ」 「ありやせんったらありやせん!!」 「今なら正直に話せば許してあげるから」 「ごめんなさい。やましいものいっぱいありやす。」 とりあえずエイジは土下座をした。ルイズはそれを呆れた眼差しで見つめていた。 「何度でも言いやすがこれは誤解なんです! 自分はMP補給のために……」 「じゃあそのやましいものって嫌々持ってるの?」 「それは……くっ……お嬢さん、自分をあまり責めないで下さいっ……」 エイジはやましいものの一つである紺色のブルマを握り締めてわなわなと身を震わせた。 翌日 「………以上のような理由から、最強の系統は『風』なのである。『風』というのは全てを薙ぎ払う力がある。 『火』も、『水』も、『土』も、試したことは無いが『虚無』でさえ吹き飛ばすに違いない。いやあそうに違いない!!」 ミスタ・ギトーの講義は生徒からの評判がすこぶる悪い。 自分の属性である『風』を褒めちぎるばかりでなく『火』や『水』の系統の魔法を貶めるのである。聞き分けの無い生徒には力を持ってしてそれをわからせるのだ。 時には生徒に対して魔法をぶつけさせるように命令する。無論その後ギトーが魔法をお見舞いするのだからそんな命令は誰も受けたくは無かった。 「そうだ、今日は試しに君が私に魔法をぶつけてみたまえ。」 ギトーの杖がルイズに向けられた。それを見て、またたくまに生徒が騒ぎ出した。 「おい、ミスタ・ギトーは本気か? あのゼロのルイズだと話にならないじゃないか!」 「ああ、でもルイズのあの爆発を『風』の魔法で跳ね返したらそれはすごいかも。」 「いや、それは流石に無理だろ。」 ざわざわと騒がしくなってきた教室内をギトーが一喝して静めさせた。 そして杖をルイズではなくその隣にいたエイジに向けられた。 「勘違いしているようだが、私の相手をするのはミス・ヴァリエールではない。その使い魔だ。」 ざわめきがいっそう大きくなった。無論ルイズはこのことに対して抗議した。 「ミスタ・ギトー! 私の使い魔はあなたの戯れの相手ではないですわ!! お断りさせていただきますわ。」 「ほう………では代わりに君が私の相手をしてくれるのかね? 私はどちらでもいいのだが」 ギトーは杖をルイズのほうに向けた。それはいつにも増して殺気立っているように感じたが、ルイズは臆することなくこう答えた。 「望むところよ。本当の魔法の使い方を教えてあげるわ。」 ルイズは杖をとった。ギトーの顔がにやりと歪んだ。 「言うねぇ………それでこそ誇り高きトリステイン魔法学院の生徒というものよ。 まあその態度は教育せねばならぬ。私も教師らしいところを皆に知らしめなければならないからね。」 一触即発。生徒たちが慌てて机の下に隠れ、戦いの火蓋がきって落とされようとしたときに――― 「お待ちになってください。」 エイジの凛とした声が教室内に響いた。ルイズもギトーの思わず彼のほうに注目した。 「お嬢さんの危機とあれば魔法を使わないわけにはいきやせん………」 エイジは汗だらけの右手を見つめて、そう答えた。 「そうかそうか。実のところ私も魔法を使ってミス・ヴァリエールを傷物にしてしまうのではないかと心配しててねえ……… 君がやる気になってくれて私も嬉しいよ。」 そんなことを抜かしながらギトーは杖を剣のようになぎ払った。 「パピコン」 エイジはステッキを取り出すと、メイド服に変身し片腕でギトーの攻撃を跳ね返した。 「ば、馬鹿なっ!!! 気合で跳ね返しただとっ!!!」 動揺するも杖を握り締めるギトー。しかしもう遅い。彼の呪文はすでに始まっていた。 「ロンリー・ラブリー・シンメトリー・プックンジップで・ロリポップ!!」 今回は一人キャイ~ン、一人だっちゅ~の、一人敬礼、締めにキスというコースだった。 そしてこの間ギトーはエイジの動きから目を離すことができず、 「キ…キレイだ……」 そういい残して爆発した。そのときに見せた満面の笑みがルイズが見た彼の最初で最後の笑みだったことを付け加えておく。 「あれ………?」 生徒たちが気づいたときには半壊してしまって青空が見え隠れする教室と汚れた教室を黙々と掃除をしているルイズ。そして、 「ミスタ・ギトーは杖の暴発で爆発してしまい意識を失われてますわ。」 消し炭になった教師がいた。 「はあっはあっはあ………はあっ」 エイジは一目散に駆け出して着替えなければならなかった。こんな姿を見られたら自分自身が死んでしまう。 自分自身が死なないためにもこんな姿を見られるわけには……… 「あ」 女性と目が合ってしまった。固まっているエイジをよそに彼女は何事もないかのように通り過ぎていった。 (ひょっとして俺のことが見えてなかったとか………? だったら嬉しいんだけど………) 彼はこのことを誰にも話すことはなかった。当然、エイジは彼女がその時自分の姿を見てにやりと笑っていたことに気づいていなかったのだ。 「なかなかやるわね、エイジ。でもね………」 彼女はこっそり魔法のステッキを取り出し、妖しげにに微笑むと 「あまり深淵に突っ込んじゃだめよ。ふふふふふ………」 ミス・ロングビルは一人、そんなことをつぶやいた。 さらに翌日 シエスタは一昨日と同じ時刻に水洗い場に向かった。ミス・ヴァリエールの使い魔であるエイジに一昨日の決闘の事について話を聞くためだ。 エイジが決闘相手であるギーシュを半殺しにしたという噂は耳にしたのだが具体的にどのようにして勝ったのかは誰も知らないのである。 更に昨日は教師であるギトーを意識不明にさせたらしいし、わからないことだらけなのである。 そして周りの話によるとエイジとルイズは一昨日の事や昨日の事に関して堅く口を閉ざしたままだった。 なのでエイジに直接聞いてみることにしたのだ。 程なくしてシエスタはエイジの姿を発見したので声をかけようとした。が、 「………」 エイジは魔法学院の制服を見つめながらあたりをきょろきょろと見回していた。 シエスタはとっさに隠れて様子を見ることにした。 使い魔であるエイジはご主人様であるルイズの下着等を洗うことも要求された。……だがそれは一昨日までの話だ。無論シエスタはこの事を知らない。 誰もいないことを確認すると、エイジは自分の衣服を脱ぎだした。 「お嬢さん………」 そしてエイジは持ってきた小さな制服に袖を通し、入りきらなかったおなかの筋肉の部分を愛しげに撫で回した。 「!!!!!!!!」 シエスタは急いで目を背け、自分で自分の口をふさいだ。そうでもしないと大声で叫びかねなかったからだ。 (見なかったことにしよう………でも出来るかな?あんなに強烈だったのに。なんか夢に出てきそうだわ………) 女子の制服を着て至高の気分に浸っているエイジの嬌声が聞こえてきたが書くに耐えないのでここでは割愛する。 「ふぅ………」 すっかり満足したエイジは制服を懐にしまい、歩き出した。 (に、逃げなくちゃ………!) 抜き足差し足忍び足 シエスタは昔おじいちゃんに教えてもらった歩き方でこの場から離れようとした。が、 「「あ」」 完全に目が合ってしまった。二人とも足がすくんで逃げ出すことができなかった。 エイジは何とか言葉を紡ぎ出そうとする。 「さっ、さっきのはっ、その………」 しかしエイジが言い訳する前にシエスタが口を開いた。 「いや、私はなにもみてないといいますか。もし仮に見てたとしても私はそういう趣味に偏見とかは持ってないですし、 だからここで見たことは何も言いませんし、ただ人の制服を勝手に盗んでするのはどうかと思いますけど、 とにかく! 私は見てないですからこれで失礼します!」 シエスタはそこまで早口でまくし立てた後にあっという間に走り去ってしまった。 「………」 エイジは引きとめようとしていた右手をぎゅっと握り締めてじっと見つめていた。 拳に一粒の涙が落ちた。 結局シエスタに一昨日の事や昨日の事については聞かれることはなくなったためエイジは助かったといえる。 シエスタとのフラグは完全に折れてしまったが。 前ページ次ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9359.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十五話「決戦!怪獣対マシーン」 自然コントロールマシーン テンカイ 自然コントロールマシーン エンザン 自然コントロールマシーン シンリョク 友好巨鳥リドリアス 地中怪獣モグルドン 電撃怪獣ボルギルス 古代暴獣ゴルメデ 登場 タバサをガリアの魔の手から救出し、ラ・ヴァリエール領まで逃れてくることに成功した ルイズたち一行。だがしかし、彼らの元へ異常な現象が接近してきた! 暴風が吹き荒れ、 気温が急上昇し、森が森を侵蝕してくる! 敵の新たな攻撃か! ルイズと才人にまたしても危機が迫る! ラ・ヴァリエール領に広がる森の木々を、台風が吹き飛ばし、猛烈な熱波が焼き焦がし、 そして元の場所には別の樹が新しく生えてくる。このサイクルが恐ろしい速度で進んでいく。 まるで土地が別のものに塗り返されていくようであった。 才人は徐々にラ・ヴァリエールの城に近づいてくるその現象を、険しい目つきで見やった。 「どう見ても自然の現象じゃない……。あれもガリアの差し金か!?」 『どうやら、タバサたちより先に俺たちを始末しようってつもりみたいだな』 ゼロのひと言にうなずいて、才人は額に浮かんだ玉のような汗を腕でぬぐった。台風の方角から 飛んでくる熱波は、城内の気温も殺人的な勢いで上げていっているのだ。 「うぅ……!」 「カトレアさんッ!」 真っ先にダウンしたのはカトレアだった。身体の弱い彼女が、急上昇していく気温に耐えられる はずがないのだ。才人は思わず振り返って叫ぶ。 「お嬢さま、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」 「……!」 カトレアの身体を支えるヤマノが必死に呼びかけた。エルザも不安な眼差しをカトレアに 向けている。 カトレアは高熱に耐え切れずに意識を失っていた。危険な状態だ。 「エルザ、君の力で気温を下げられないか?」 「ダメ……周囲一帯の精霊が、怪しい力で抑えつけられてる。これじゃ、精霊の力が使えない……」 エルザの返答を受けてヤマノは、才人へ振り返った。 「私たちはお嬢さまをここから避難させる。どうか君たちの力で、お嬢さまたちを助けてほしい!」 「はい! 頼まれるまでもないです!」 ヤマノの懇願に、才人は即座に首肯した。このままではこの城にいる全ての人々が危うい。 いや、もしかしたら危険なのはトリステインの全国民の命かもしれない。そんなことを許せる はずがなかった。 「すまない、頼んだよ!」 ヤマノとエルザは二人でカトレアを運んでいき、医務室から出ていった。 一方で、接近してくる異常気象に新たな動きが起こった。 『才人、あれを見ろ!』 台風が引き起こす渦巻く暴風が徐々に収まり、その中から三つもの巨大な影が露わになった。 「プア――――――!」 「ギュウウウウウウ!」 それらは全て明らかな人工物……巨大な機械であった。宙に浮いているものは釣り鐘のような 形状で、中央のタービンが回転することで暴風を引き起こしている。後の二体は手足のある ロボットであり、片方はクワガタムシを思わせる二本の角を生やしていて、もう片方は塔の ような胴体をしていた。 この三体のロボットには、表面に謎の文字が刻まれているという共通点があった。当然ながら、 ハルケギニアに存在する文字とは全く違うことは明白だった。 「何か、漢字に似てるな……」 才人はそんな風に感じた。実際に、現在の漢字のルーツの一つである篆書体が正体であった。 これらロボット怪獣たちの正体は、ある宇宙の地球の環境を作り変えることを目的として 送り込まれた自然コントロールマシーン……人工の台風で大気を洗い流すテンカイ、気温を 自在に操作するエンザン、そして大地を森林で埋め尽くさせるシンリョクである。 三体の自然コントロールマシーンが才人たちへの刺客となって、城に接近してきているのだった。 「くッ、これ以上近づけさせてたまるか!」 マシーンたちの侵攻を阻止するために、才人は医務室を飛び出して屋敷の正門へ向けて駆け出した。 こっちから可能な限り近づいて、そこから変身して一気に仕留めてやる。 「うぅッ……! あ、暑い……!」 「く、苦しい……! 誰か、手を貸して……!」 「しっかりしろッ! 気を強く持つんだ!」 城内の至るところで、使用人らが急激に上昇していく気温に当てられて悶え苦しんでいた。 脱水症状を引き起こして、近くの者に助けられている人も少なくない。熱波の影響は、既に これほどの事態を発生させているのだった。 ぐッ、と歯を食いしばる才人。こんな光景は他の場所でも起きているのだろう。使用人だけ ではない、先ほどのカトレアのように、他のルイズの家族、自分の仲間たち、そしてルイズも また苦しめられているのだろうか。メイジの系統魔法が先住魔法にどうやっても敵わないのと 同じように、自然の法則そのものをねじ曲げる自然コントロールマシーンの力には魔法で 太刀打ちすることは出来ない。 「俺がみんなを救わなくちゃ……!」 辺りには苦しむ人たちが大勢いるが、彼らに構っていても根本的な解決にはならない。 才人は後ろ髪を引かれる思いを覚えながら、それを振り切って正門から外へ飛び出した。 マシーンたちは才人の正面から少しずつ接近してきている。 「よし……行くぜッ!」 覚悟を固め、マシーンたちに正面から向かっていこうとした。が、 「待ちたまえ、きみ! こんな時に一体どこへ行こうと言うのだね!?」 「うおぅッ!? ギーシュ!?」 後ろからギーシュに肩を掴まれて引き留められてしまった。途中で走っていく自分の姿を見つけ、 追いかけてきていたのだった。 「きみ、屋敷の中には助けを求める人たちでいっぱいだ! 副隊長として、彼らを助けないで どうするのだね!?」 「い、いやけど、あいつらを……!」 「まさかあのゴーレムたちを止めようというつもりか!? 馬鹿な真似はよしたまえ! 暑さで頭がおかしくなってしまったのか!?」 「いやそうじゃないんだけどッ!」 しどろもどろになる才人。早くギーシュをかわして変身しなければならないのに、上手い 言い訳が思いつかない。 そんなことをしている間にも、マシーンたちは距離を詰めてきている! しかしその敵たちに対し、果敢に立ち向かうものが現れた! 「ピィ――――――!」 「グウワアアアアアア!」 「ピュ――――――イ!」 「グイイイイイイイイ!」 リドリアス、ゴルメデ、モグルドン、ボルギルス。カトレアの厚意でラ・ヴァリエール領に 暮らす怪獣たちだ! それぞれテンカイ、エンザン、シンリョクにぶつかっていき、進撃を食い止める。 「あいつら……!」 才人は驚きと、喜びの感情を浮かべた顔で怪獣たちを見上げる。カトレアのあらゆる種族に 対して分け隔てない優しさが今、彼女たち自身を助ける結果につながっているのだ。 「ギュウウウウウウ!」 「プア――――――!」 だが怪獣たちの抵抗も短い時間の間だけだった。テンカイは機体から突風を吹き出して リドリアスをはね飛ばし、エンザンは胸部から高熱火炎を発射してゴルメデを弾き、 シンリョクは森を操って巨大な蔓を伸ばし、モグルドンとボルギルスを地に伏せさせる。 更にテンカイは倒れたリドリアスの上に落下して押し潰し、エンザンは角から赤い電撃を ゴルメデに向けて撃ち、シンリョクは緑色の光弾を放ってモグルドンとボルギルスを一方的に 痛めつける。 「ピィ――――――!」 「グウワアアアアアア!」 「ピュ――――――イ!」 「グイイイイイイイイ!」 自然コントロールマシーンは高い戦闘力も有していたのだった。怪獣たちの苦悶の叫び声が轟く。 「やめろぉーッ!」 思わず叫ぶ才人。早く怪獣たちを助けてやりたいが、ギーシュがすぐ横にいる今、彼の前で 変身することは出来ない。どうしたらいいのか。 いっそのこと当て身を食らわせてギーシュを気絶させてしまおうかと物騒なことが頭をよぎった その時、彼らの元に一陣の疾風が吹き荒れた! 「うわぁぁぁッ!?」 風に吹かれてひっくり返るギーシュ。彼の側から、才人の姿が忽然と消えた。 才人の方は疾風の正体――シルフィードにまたがったタバサに引っこ抜かれていた。 「タバサ!?」 一瞬面食らった才人だが、タバサは自分が困っているのを察して手を貸してくれたのだろう。 彼女はこれまでにも、いざという時に自分を助けてくれた。感謝しきりだ。 だが次の彼女の発言に、更に驚愕させられることとなった。 「どの辺りで出来る?」 「えッ、何が?」 「ウルトラマンゼロに変身」 当たり前のようなひと言に、才人は思い切り目をひん剥いた。 「お、お前どうしてそれ……い、いや! 何のことかな……」 「ルイズの系統は“虚無”」 一瞬シラを切ろうとしたが、続く指摘で、タバサが当てずっぽうにものを言っているのでは ないことを分からされた。 「……知ってたのか」 「見てれば分かる」 才人は脱帽した。タバサは聡明な少女だ。彼女の目を欺き続けることは土台無理だった訳だ。 気持ちを切り替えた才人の判断は素早かった。怪獣たちをいたぶるマシーン軍団の影響がない ギリギリ手前の地点を指して頼む。 「あの辺まで近づいてくれ!」 タバサがうなずき、シルフィードが迅速にその方向へ飛んでいく。そして才人はシルフィードの 背の上で、ウルトラゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 才人が飛び出していきながら変身、巨大化し、弾丸のようにエンザンへと突撃していく! 「シェアァァァッ!」 「ギュウウウウウウ!!」 ウルトラマンゼロの体当たりによってエンザンが弾き飛ばされ、ゴルメデは電撃攻撃から解放された。 ゼロは続けてテンカイを鷲掴みにして投げ飛ばし、シンリョクに猛然と肉薄してハイキックで 蹴り倒すことで残る三体も救出した。 『テメェらの傍若無人もここまでだ! こっから先に通ろうなんて、二万年早いんだよッ!』 下唇をぬぐって啖呵を切るゼロ。その姿を、タバサがどこかほれぼれとした様子で見上げた。 『お前たち、よく頑張ったな。後は俺に任せて避難しな!』 「ピィ――――――!」 ゼロは助けた怪獣たちをこの場から下がらせる。一方でマシーンたちは体勢を立て直して、 攻撃の矛先をゼロに向けた。 「ギュウウウウウウ!」 まずはエンザンが一番手となって、角を前に突き出して突進してくる。ゼロは変に避けよう とはせず、角をはっしと掴んで突進を受け止めた。 『であッ!』 「ギュウウウウウウ!」 そして後方へと受け流す。前のめりになったエンザンは腹這いになり、勢い余って地の上を ズリズリ滑っていった。 「プア――――――!」 だがエンザンへの追撃は出来ない。直後にテンカイが突風を吹き、竜巻を巻き起こして ゼロにぶつけてきたからだ。 『ぐッ!』 さすがのゼロも猛烈な風の影響を無視することは出来ず、身体がよろめく。その隙を突いて、 シンリョクが植物を操って蔓でゼロの身体を拘束した。 『うおッ! このッ!』 ゼロは瞬時にゼロスラッガーを自動で飛ばして蔓を切断する。が、間髪入れずにエンザンが 背後から火炎攻撃を飛ばしてきた。 「ギュウウウウウウ!」 更に前方からはシンリョク、テンカイが光弾と竜巻をぶつけてくる。ゼロは三体のマシーンに 袋叩きにされる。 『うおおぉぉぉッ!』 同じ系統のマシーンだけあって、三体の連携は確かなものだ。合体攻撃を耐えるゼロだが、 その時に彼の超感覚が応援の声を聞き止めた。 「ゼロ! 頑張ってッ!」 それはルイズの叫ぶ声であった。姿は見えないが、彼女は自分も熱波と暴風に苦しめられる中、 ゼロと才人の戦う姿をしっかりと見届けてくれているのだ。 そしてルイズの存在を意識した途端に、才人の心にめきめきと力が湧き上がってきた。 『ルイズ……! おおおおおおッ!!』 『才人!?』 ルイズの声を聞く。それだけで才人の精神に、不思議なくらいに気力と闘志、彼女を助けるのだ という使命感が膨れ上がり、ゼロの力につながった。 「セアァッ!」 ゼロは自分の周囲にスラッガーを回転させ、マシーンたちの攻撃を切り払った。次いでその場で 回りながらエメリウムスラッシュで反撃。 「ギュウウウウウウ!」 「プア――――――!」 エンザン、シンリョクはレーザーに撃たれて倒れ込んだが、テンカイは上空へ飛び上がって回避。 しかしその瞬間にゼロはルナミラクルに変身。無防備になったテンカイの底部に向けて、 一直線に突っ込んでいく! 『せぇぇぇぇいッ!』 超能力で急加速した勢いでの突進はテンカイを綺麗に貫通した! ゼロはテンカイから 引き抜いたダンベル型のコアを、テンカイの機体に投げ返す。 テンカイはコアごと粉々に爆散して、風に吹かれて消えていった。 「プア――――――!」 着地したゼロにシンリョクが再び蔓を伸ばして拘束しようとする。しかしゼロは着地と同時に ストロングコロナに変化を遂げていた。 『うおおおおぉぉぉぉぉッ!』 ストロングコロナゼロの怪力が易々と蔓を引き千切り、ゼロはシンリョクに向けて灼熱の 光線を拳から放つ。 『ガルネイトバスタぁぁぁぁ――――――――ッ!』 光線がシンリョクに突き刺さり、貫通。一瞬にして全身を爆散させた。 「ギュウウウウウウ!」 最後に残ったエンザンに対し、元の姿に戻ったウルトラマンゼロは、才人の意志に突き動かされて 指を突き立てた。 『俺はこの星を守るッ! 出ていけぇッ!!』 才人の恫喝にエンザンは怖気づいたようによろめき、ガクリと腕を垂らすと背を向けて去り始める。 と見せかけて振り返り、火炎放射を繰り出してきた! 汚い騙し討ちだ! だがゼロはその程度のことは読み切っていた。スラッガーをカラータイマーに接続して、 エネルギーチャージ。 「シェアァァァァァッ!」 そうしてツインゼロシュートを発射! 超威力の必殺光線がエンザンを撃ち、瞬時に消し飛ばした。 『よしッ!』 心の中でガッツポーズを取る才人。自然コントロールマシーンが全て破壊されたことで、 熱波は収まり気温は元通りになっていく。黒雲も晴れていき、満点の星空が露わになった。 『やったな、ゼロ! 俺たちの逆転勝利だぜ!』 才人は喜びはしゃいでゼロに呼びかけたが、何故かゼロからの反応が薄い。 『ああ、そうだな……』 『ん? どうしたんだ?』 『……いや、何でもねぇさ』 何やら含みのありそうなゼロだったが、結局何も言わずに飛び立って星空の彼方へと飛び去っていった。 自然コントロールマシーンの襲撃を乗り越え、一夜を明かしたルイズたち一行。日が昇ると、 彼らはいよいよ魔法学院に帰るためにラ・ヴァリエール領から発っていった。 その道程の途中で、ウェザリーが離脱する。彼女は役目を果たしたために刑期を繰り上げて 内密に釈放されることになっていたので、ここで解放されることとなったのだ。中途半端な 場所ではあるが、以前襲撃した学院に顔を出す訳にもいかない。 「お別れですね、ウェザリーさん」 街道の途中で馬車を止め、才人たちはウェザリーを見送っている。 「タバサを救出する作戦があんなにも上手く成功したのは、ウェザリーさんの力のお陰です。 本当に助かりました」 「肝心なところでは、力になれなかったけどね……」 「いえ、そんなことないですよ! ……ところで、ウェザリーさんはこれからどうするつもり なんですか?」 ウェザリーは一家離散して、頼るあてのない身の上だ。彼女のこれからを才人は少々案じるが、 ウェザリーは快活に微笑んだ。 「大丈夫。新しく演劇好きの仲間を募って、劇団を立ち上げてハルケギニア中を回るわ。 もちろん今度は裏なんてなしの、ね。旅路の中で、離ればなれになった家族や元領民も 見つけられるかもしれないし」 ウェザリーは並んだルイズたちの顔をゆっくりながめる。 「決してあきらめずに困難に立ち向かっていったあなたたちのように、私も前だけを向いて 生きていくわ」 「……頑張ってね、ウェザリー。遠く離れた場所からでも、ずっと応援してるわ」 「ありがとう。いつかまたトリスタニアで劇を行う時には、必ずあなたたちを招待するわ」 「楽しみに待ってるわね!」 ルイズと固い握手を交わすウェザリー。そして彼女は一行の元から離れ、自身の新たな道を 進み始める。 「さようなら、ウェザリーさーん!」 ウェザリーの旅立ちを、才人たちは大きく手を振って送り出したのだった。 ルイズたちの一方で、王宮に帰還したアンリエッタの元には、突然の来客が訪れていた。 それもとびきり驚くべき人物の。 宮廷の応接間に迎えたその客を前に、アンリエッタはしばし呆然としてしまった。 濃い紫色の神官服に、高い円筒状の帽子を身に纏った美青年。彼の服装は、ハルケギニア中の 神官と寺院の最高権威、つまりロマリアの教皇だけに許されたものである。 彼こそはヴィットーリオ・セレヴァレこと、聖エイジス三十二世。三年前に即位したばかりで あるが、ロマリア市民から絶大な支持を持つ現在のロマリア教皇である。形式上は、アンリエッタ よりも地位が上なのだ。 「教皇聖下、即位式には出席できませんで、大変失礼致しました」 当時のアンリエッタは流行風邪により、彼の即位には立ち会えなかった。その無礼を詫びると、 エイジス三十二世は慈愛に満ちた微笑を返した。 「ヴィットーリオとお呼び下さい。私は堅苦しいばかりの行儀を好みません。即位式など、 ただの儀式です。あなたが、神と始祖の敬虔なるしもべということに変わりはありません。 それで私には十分なのです」 エイジスの雰囲気は、その辺の神官によくある、権威を笠に着た尊大さは欠片ほどにもなかった。 ある意味ではハルケギニアの最高権力者という立場とは裏腹な、あまりにも物腰柔らかな姿勢には、 アンリエッタにはまぶしくさえ見えた。 しかし、そんな彼の突然の訪問にはどのような目的があるのだろうか。教皇ほどの人物が、 一国の王とはいえ権力が下の人物の元にわざわざ出向いてくるなど、滅多にあることではない。 アンリエッタがそのことについて尋ねると、エイジスは深いため息を吐いて聞き返した。 「アンリエッタ殿は、先立っての戦役をどうお考えか?」 エイジスは、アルビオンでの戦のことを尋ねているのだ。レコン・キスタのアルビオン王家 転覆から端を発し、異次元人の陰謀により戦火が広がり、遂にはハルケギニア人同士の衝突に 発展して、戦火が生む負の念が最悪の事態を招きかけた、忘れようもない一連の戦。ウルトラマン ゼロたちの献身がなければ、ハルケギニアは間違いなく滅亡していたことだろう。アンリエッタは そのことには自分にも責があるとして、この戦のことは非常に重く受け止めているのだった。 「悲しい戦でありました。もう二度と、あのような戦は繰り返したくない。そう考えております」 アンリエッタの回答に、エイジスは満足げにうなずいた。 「どうやらアンリエッタ殿は、私の友人であるようだ」 「どのような意味でしょうか?」 「その通りの意味ですよ。常々、私は悩んでおります。神と始祖ブリミルの敬虔なるしもべで あるはずの私たちが、どうしてお互いに争わねばならぬのかと。まして、現在のハルケギニアは 人間同士の争いの他にも、恐るべき災厄に見舞われています」 怪獣災害や侵略者の攻撃のことである。当然ながら、これらの大問題にエイジスは思うところが 大きいようだ。 「我々のような立場の者は今こそ、神と始祖の名の下に団結し、これらの災厄に立ち向かい 世の平和と安寧を取り戻さねばならぬ。そうは思いませんか?」 「まこと、聖下のおっしゃる通りです。しかしながら、わたくしたちに立ちふさがる困難に対して、 悲しいことにわたくしたちはあまりに無力。わたくしのような未熟者では、どうしたら良いのか 見当がつきません」 それがアンリエッタの悩みの種であった。自分たち人間がもっと強い存在であったならば、 今よりもずっとゼロたちを手助けできるのに。 すると、エイジスはこのように言ったのだった。 「私はそのための手段の提示と、アンリエッタ殿のご協力の取り次ぎを申し出るために参ったのです」 エイジスは餌を取り合う二種類のアリの例で喩えながら、その手段というものをアンリエッタに 語った。アリ同士の争いを治めるためには、両方に餌を与えればよい。そしてそれが出来るのは、 アリにとって巨大すぎる人間のような、絶大な力を持った存在。 要するに、平和を維持するためには巨大な力が必要なのだと。 「わたくしたちのどこにそのような力が……」 聞きかけたアンリエッタは、目の色を変えた。エイジスは“虚無”のことを示しているのだった。 彼は、アンリエッタが既に“虚無”の担い手に関わっていることを見抜いているのであった。 エイジスは今こそ四つに分かれた“虚無”の力を集め、またその力に行き先を与えるのだと唱えた。 その力に行き先とは、聖地。エイジスはエルフから聖地を取り返し、そこを心の拠りどころにして ハルケギニア中の人間の信仰を回復し、意識を一つに纏めることを考えているのだった。 「“虚無”の力で異界からの災厄も祓えることは実証済みです。信仰によって、真の平和は 訪れます。今こそがエルフより聖地を奪還する時なのです」 「……また争うのですか? 今度はエルフと? おっしゃったではありませんか! もう争いは たくさんだと!」 「強い力はエルフに向けて使うのではありません。我らは“虚無”を背景に、エルフたちと 平和的に“交渉”するのです」 エイジスの言葉には、一点の嘘の曇りもなかった。彼は本気で、ハルケギニアに平和を 取り戻すことを考えているのだ。そのために彼が提唱する方法にも、一理ある。 しかし……アンリエッタは、そう安易にうなずくことは出来なかった。彼女はアルビオンで、 人の『闇』を見た。闇が結集して生まれ出た究極超獣は、エイジスが絶対的な自信を見せる “虚無”すら寄せつけなかった。あの出来事で、アンリエッタは人の心の闇と、力の危険性に 対して以前よりもずっと慎重な態度を取るようになっていた。 果たして聖地を取り返すことで、本当に人の意識は一つに纏まるのか? 人が集まるほどに、 闇が巨大化することはもう分かっている。もし何かを間違えて、集めた“虚無”の力の矛先が 自分たちに向いたら、それ以上に恐ろしいものがまた生まれたりしたら……その時は取り返しが つくのだろうか? アンリエッタはその気持ちをエイジスに吐露した。 「聖下のお話は壮大すぎて……人の身であるわたくしには、それが正しいのかどうか判じかねます。 それに、わたくしたちには幸いにも災厄を取り除いてくれる、強い味方がおります。焦ってエルフと 相まみえるという大きな危険に臨むこともないのではないでしょうか?」 と告げた、その瞬間……エイジスの聖職者の威光が、かすかに陰ったようにアンリエッタには 感じられた。 「ウルティメイトフォースゼロと呼ばれる巨人たちですね……。確かに彼らは現在、我らを 助けてくれております。しかし……彼らは本当に善意ある存在なのでしょうか」 「は……?」 「彼らは後に、私たちを助けた報酬としてハルケギニアを要求するつもりかもしれません。 いえ、彼らが現れ出してから、怪獣もまた出現するようになったのです。ひょっとしたら 彼らこそが、ハルケギニアを覆う災厄の黒幕なのかもしれませんよ」 その言葉に、アンリエッタは思わず耳を疑った。聖人という言葉がそのまま人間になったかの ようなこの教皇が……そのような心ない発言をしようとは! 「聖下! お言葉ですが、それはあんまりですわ! わたくしたちとは根本から異なるとはいえ、 人の行いにそのような穿った見方をなさるとは……清廉たる聖職者の頂きに座するお方のご意見とは 思えませんッ!」 つい語気を荒げて批判すると、エイジスの表情に柔らかな微笑が戻った。 「失礼、言いすぎましたね。しかし、教皇である他に大勢の人身に対して責任を持つ立場で ある以上は、残念ながら人を疑わねばならぬ時もあるのです。どうぞご理解いただきたい」 エイジスの謝罪により、アンリエッタは幾分か落ち着いた。よく考えれば、自分は実際に ゼロたちと対面して彼らの人となりに触れたからエイジスの言うようなことはありえないと 判断できるが、エイジスからしたら彼らは未知の存在なのだ。警戒心を抱いていて然るべき なのかもしれない。 結局はエイジスの心配は杞憂なのだから、この件をこれ以上論ずる必要はないだろう。 「ともかく、“虚無”という大きな力に対して慎重になられるのは当然のことです。しかし、 あまり猶予がありません」 「猶予とは」 「ガリアです。哀しいことに、かの国は民の幸せより、己の欲望を是とする狂王が支配しております。 かの男には、“始祖の虚無”を与える訳にはいきませぬ」 アンリエッタの脳裏に、ガリア国王ジョゼフの姿が浮かんだ。実の弟であるオルレアン公を 虐し、ルイズやタバサたちに非道を繰り返した残虐な男。しかも未だ確証はないが、彼には怪獣を 操る恐るべき力までがあるのだ。そこに更に“虚無”まで明け渡すことは許されない。 ジョゼフをどうにかしなければならないことだけは、全面的に同意できた。 「神と始祖のしもべたるハルケギニアの民のしもべである教皇として、私はあなたに命じます。 お手持ちの“虚無”を一つところに集め、信仰なき者どもよりお守り下さいますよう」 アンリエッタはエイジスの命令により、ルイズの他にもう一人の“虚無”の担い手、 アルビオンのティファニアのことを考えた。 彼女はウェストウッド村に留まることを選び、また忘却の“虚無”も有しているので、 彼女が“虚無”の担い手であることは自分たちの他に知られていないはず。しかし…… 相手は脅威の全容も見えないジョゼフ率いるガリア。それだけで、絶対的に安心とは思えなかった。 やはり、ティファニアを暗黒の魔手から保護する必要がある。アンリエッタはそう判断した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9329.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百一話「迷宮のルイズ」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 登場 才人がリシュに連れさらわれたのと同時に、トリステイン各地に実体とも幻影とも取れない 怪獣が出現。そしてクリスは、リシュの正体を語った。リシュはサキュバスという四百年前に 封印された、夢を支配する危険な亜人だったのだ。そして各地に出現した怪獣は、リシュが才人と ゼロの記憶を元に作り出した代物のようだ。このまま放っておいたら、世界中に怪獣が溢れ返って 手がつけられなくなってしまう。 そこでルイズが、才人とゼロを救出するために夢の世界へと旅立っていった。だが、それは非常に 危険な旅路であるのだ。果たして、ルイズは無事に才人たちを救い出すことが出来るのだろうか。 クリスの力を借りて、サキュバス・リシュの作り出した夢の世界へ侵入したルイズだが、 その世界はこれまで見ていた夢と同じようで異なった世界であった。舞台は才人の記憶から 再現された地球の日本なのだが、夢の続きそのままという訳ではなかった。この世界では ルイズは転校してくる前の段階で、キュルケでさえルイズのことを事前に知らなかった。 ルイズはこの世界の住人と、完全に初対面ということになっていた。ルイズは孤立無援であった。 (……みんなの記憶は、リシュによって調整されてるみたいね。わたしはクリスの手を借りての 侵入で、最初からはいなかったから、わたしの存在はみんなの記憶に反映されてないんだわ) そして、夢の世界で肝心の才人を発見することが出来たのだが、才人でさえルイズの顔を見て……。 「えーっと……ごめん、君は誰かな? 誰かと間違えてない?」 何と、才人までがルイズを覚えていなかった。あれほどともに暮らし、ともに戦ってきたというのに……。 さすがにルイズもショックを禁じ得なかった。 やはり、才人もリシュに記憶をいじられているのか。 「思い出して、サイト! 本当のことを! あなたの中にいるゼロはどうしちゃったの? ほら、あなたの左腕にはゼロのブレスレットが……!」 才人の左手首を確認したルイズ。そこにはちゃんとウルティメイトブレスレットがあったのだが……。 (!? 明かりが灯ってない……!) ブレスレットのランプには光が宿っておらず、電池が切れたかのように黙しているのだ。 ブレスレットの輝きはゼロの意識を表している。それが消えているということは、ゼロは強制的に 眠りに就かされているのか。 最も心強い味方が封じられてしまっていることに、ルイズは激しく動揺する。クリスの言った通り、 夢の世界ではゼロほどの戦士といえどもサキュバスには逆らえないのか。 しかも才人自身は、自分の左手首を訝しげに見つめた。 「ブレスレット? 何言ってるんだ? 俺はアクセサリーなんてしてないぞ」 「!? まさか……見えてないの?」 才人は、ブレスレット事態を見えなくされていた。恐らく、ブレスレットを見て記憶を 取り戻さないようにするための処置。リシュに隙がないことに改めておののくルイズ。 更には、 「サーイト♪ その子、一体誰?」 ルイズの記憶にはない謎の女が、才人の腕になれなれしく抱きついたのだ。才人は彼女について、 はにかみながら説明した。 「こいつは、俺がつき合ってる彼女だよ」 才人に彼女……! それが最もルイズがショックを受けた事柄だった。ひどく心を痛めて、 思わず才人の前から走り去ってしまったほどだ。 以上のように、夢の世界は想像以上にルイズに辛い世界であった。……しかし、簡単には 行かないということは初めから分かり切っていたことではないか。これしきのことでくじけては、 自分に全てを託してくれた仲間たちに申し訳が立たぬ。ルイズは気を強く持ち直して、この逆境を 打破して才人とゼロを取り返す気概を燃やすのだった。 無人の高校の教室で、ルイズはここまでで得た情報を整理し、自分がこれから何をするべきかを 定めていた。 「やっぱり、まずはどうにかしてサイトに元の記憶を取り戻させるのが先決よね……」 才人は完全にリシュの力によって心を操られている。この状態では、夢の世界から連れ出すことは ほぼ不可能であろう。それにゼロのこともある。才人とゼロは一心同体。才人の力がゼロの力となる。 才人に記憶が戻ってゼロのことも思い出せば、きっとゼロも封印を破って覚醒するはずだ。一度ゼロに 力が戻れば、たとえ夢の世界だろうとサキュバスにも負けないはず。 「そのためには、あのサイトの彼女とかいう女が障害となるわ……。あれはきっと、リシュが サイトを夢に縛りつけておくために送りつけた刺客……」 才人の彼女を名乗る女の顔を忌々しく思い返すルイズ。それまで見てきた夢の記憶を手繰り 寄せてみたら、春奈もいたのにあんな女は一度として登場したことがなかった。それに、仮に 現実に才人に彼女がいたのならば、普段からもうちょっと女慣れしているはずだ。そういうこと なので、才人の彼女はこの世界で設定された架空の存在なのだと推理する。 「あの女が側にいたら、サイトに手出し出来ないわ。どうにかしてあの女を遠ざけて、サイトが 一人でいる状況を作らなくちゃ……」 それから何とか説得を……と算段を立てていたところ、不意に誰かから声を掛けられる。 「ルイズさん、こんなところで何をやってるのかしら?」 振り返れば、ちょうど例の才人の彼女が一人でこちらに接触してきた。ルイズは警戒心を強める。 「……そっちこそこんなところに一人でやって来て、何の用かしら」 ルイズがにらみ返すと、女はこんなことを正面から告げた。 「ルイズさんに、サキュバスのことでお話しがあります……と言ったらどうかしら?」 「!?」 ルイズはますます身を強張らせた。まさか、こんな直球に自分に挑戦してくるとは。 「もったいぶらなくていいわ。話を聞こうじゃない」 ここで逃げても仕方がない。ルイズはその挑戦を真っ向から受けた。 「ふふッ……」 笑んだ女はパチリと指を鳴らす。 すると、教室の空間がグニャリと歪んで、戻った時には肌に触れる空気が、上手くは説明できないが 妙なことになっていた。 「な、何をしたの?」 「気づいた? ここを、あなたかあたしが出ていくまで余計な人が入って来れないようにしたのよ。 これで思う存分話せるわ」 女の言葉にひと筋の冷や汗を垂らすルイズ。いきなり、お互いの核心に迫る話をするつもりのようだ。 「最初に聞きたいんだけど、あなたがここに来たのはあの、封印の一族に連なるお嬢様の差し金かしら?」 問いかけてくる女。ルイズは答えるべきか否か少し考えたが、今更隠し立てしても有利に なることはない。ここは強気で行こう、と判断する。 「ええ、そうよ。クリスの力を借りてサイトとゼロを取り返しに来たの! どんなことをしても、 サイトを連れて帰るんだから!」 サッと杖を抜いて女に向けるルイズ。クリスの力で、武器を一緒に送ってもらったのだ。 「知ってるかもしれないけど、わたしもただのメイジじゃないわ。ちょっと簡単にはいかないわよ。 覚悟しなさい!」 精神的に優位に立とうと脅しを掛けるが、女は動じもしない。 「もちろんあなたのことも知ってるわ。伝説の“虚無”の使い手……。でもいくら伝説でも、 頭の中をいじられて、意思や記憶を操作されて同じことが言えるのかしらぁ?」 「お、脅かそうったって無駄よ! 確かにこの世界はいじれるでしょうけど、クリスの力で 夢の世界に来たわたし自身は変えられないでしょ!」 ルイズが突き返すと、女は不敵に笑む。 「……何故そう思うの?」 「出来るなら、最初からやってるに決まってるじゃない!」 それがルイズの根拠。しかし、女は嘲るようにクスクス笑い声を立てる。 「ルイズ、あなた面白いわねぇ」 「な、何が面白いのよ!」 「あなたが侵入者であることはすぐに分かったわ。ただの余興でそのままにしてあげてる だけだっていうのに、得意そうにして」 「う、嘘よ。はったりかまして、こっちを屈服させようとしてるんでしょ!」 「嘘じゃないわぁ。その証拠に、現実世界に現れた怪獣を操って動かしてたのは、このあたしなのよ。 あたしはあんな大きな生き物の意思も自由に出来るのよ。あなた一人を思い通りにするくらいは お茶の子さいさいだわ」 そう指摘されて、ハッと息を呑むルイズ。確かに、リシュは他者の精神を支配できる実例がある。 自分自身、リシュの手先となったダリーに侵されて危機に陥った。 「今だって、既にあなたに縛りを与えてること、気づかない?」 「えッ……!?」 「今、その縛りを解いたわ。あたしの身体を見て、よーく思い出して?」 「身体って……その翼……!?」 ルイズは驚愕して目を見開いた。先ほどまでは普通の女子生徒にしか見えなかったが、 今目の前に立つ女には、角があり、翼がある。そしてその顔は……! 「ああッ! な、なななななッ! あなた、リシュ?」 「いい反応ねぇ。うふふ、そうよ。こんにちはルイルイ」 どうしてこんなことに気がつけなかったのか。杖を持つ手が震えるルイズに、リシュが得意げに告げる。 「驚く必要はないわ。あたしが気づけないようにしてたんだから」 「な、何でこんなことするのよッ!」 「余興だって言ってるじゃない。すぐに黒幕が分かったら面白くないでしょぉ?」 リシュの言うことは正しくないだろう。ルイズにも影響が及ぼせることを分からせるための デモンストレーションだ。 「だけど、これ以上サイトにちょっかい出すようなら……あなたの記憶を奪って、出口のない 部屋に閉じ込めてあげる。息をすることくらいしかやることのない部屋にね。きっと、楽しいわよぉ?」 「くッ……!?」 本当にリシュが、この世界を自在に操作できるのだと思い知らされ、ルイズは大きくひるむ。それでも……。 「それでも、わたしは諦めないわッ!」 自分を奮い立たせて杖を握り直す。リシュの魔法が夢の世界で万能であろうとも、“虚無”は 魔法の中で最上位。そのルールは夢の世界でも変わらないはず。ディスペルなら夢の魔法を解除 できるだろうし、最悪ちょっとした爆発でも起こせばリシュとも戦えるはずだ。 そう思っていたのだが、しかし、 『もうッ、お馬鹿な子ね! しつこい女は嫌われるわよぉ~?』 教室に更なる怪人が現れた。才人がさらわれる直前に、自分とシエスタを足止めしたナックル星人だ! 「! あんたまでこっちの世界に……!」 『当たり前でしょぉ~? アタシとリシュはお友達、協力してるんだから!』 敵が増えたことに動じるルイズ。リシュとの一対一ならともかく、宇宙人が向こうに加勢したら 圧倒的にこっちが不利だ。 しかもそれだけではなかった。 『オホホ、窓の外をご覧なさいな』 「窓……?」 言われた通り振り返ると、校舎の外、校庭にいつの間にか巨大怪獣が出現していた! 「グウウウウ……!」 直立した羊のような姿だが、顔面には眼球が七つも並んでいる、悪魔のような容貌の怪獣だ。 「あれは……!」 『夢幻魔獣インキュラス! 夢の中に確かな実体を持つ怪獣よぉ。お嬢ちゃんがちょっとでも 変なことをしようとしたなら、すぐにインキュラスがペシャンコにしちゃうわよッ。分かる? あなただって無駄に命を散らしたくはないでしょ? 大人しくしといた方が身のためよぉ~』 脂汗を滝のように流すルイズ。リシュだけでも厳しいのに、宇宙人、怪獣まで敵にいては、 とてもではないが孤立無援の自分ではどうすることも出来ない。 震え上がるルイズの姿に、リシュはクスクス笑う。 「そんなに怖がらないでぇルイルイ。そもそも、あたしたちとあなたが敵だというのが早計よ」 「なッ、それはどういう意味よ! サイトをさらって、いいように操っておいて!」 リシュは真面目な面持ちになり、語り始めた。 「あたしたちの目的は、サイトをこの世界に引き込んで現実世界に怪獣を作り出してるだけには 留まらないわ。このまま夢の世界を拡大していき……最終的には現実世界も夢の世界で覆い込む。 夢と現実の境界をなくすのよ」 「なッ……!?」 「そうなったら素敵だと思わない? 世界はなぁんでもみんなの思い通りになるの! 人間同士で いがみ合ったり、憎み合ったり、争い合ったりすることもなくなる。理想郷が実現するのよ! あたしのサキュバスの力って、そのためにあるんだわ! だからルイルイも、あたしたちの仲間に なりましょうよ。そしたらあたしが、ルイルイのお望みの世界も作ってあげるわぁ」 リシュの語る世界に、戦慄を覚えるルイズ。リシュは良いように語っているが、結局は全てが リシュの意思一つで何もかもが決定してしまう、人間の自由と尊厳が奪われた偽りの世界だ。 そんなのを実現させる訳にはいかない。……だが、今の自分に何が出来るのか。現状は完全に 手詰まりだ。しかし……。 ルイズの反抗的な視線に気づいてか、ナックル星人が口を開く。 『まだ気持ちの整理がつかないみたいねぇ。リシュちゃん、ちょっと考え直す時間をあげましょうよ。 すこーしお利口さんになれば、自分がどうすべきかすぐに分かってくれるわぁ~』 「ええ、そうね。それでは、さよならルイズさん。また明日、教室で会いましょうね」 たっぷりと余裕を見せつけて、リシュとナックル星人は教室から立ち去っていった。 インキュラスもまた、校庭から姿を消す。 後には、打ちひしがれて立ち尽くすルイズだけが残された……。 その後、ルイズもうなだれた状態で教室から出た。 正直なところ、ルイズは“虚無”の魔法を駆り、才人と会いさえすれば何とかなると心のどこかに 甘い考えを持っていた。だが、それは大きな誤りだったのだと見せつけられた。クリスたちには心を 強く持てと言われたが……ルイズの精神は既に折れそうであった。 「わたし、一体どうすれば……」 力なくつぶやいたその時、 「ルイズさん、大丈夫?」 自分に掛けられる、優しい声音。顔を上げると、目の前に五人の男女がいた。 「えっと、あなたたちは……」 「同じクラスの塚本だよ。こっちの四人は仲良し四人組」 「毎度お馴染み、落語でございます! そして博士とスーパー、ファッションでござい!」 才人と同じ黒髪に黒い瞳。ハルケギニアにはいないタイプの容姿と名前だ。彼らは春奈のように、 才人の本来のクラスメイトなのだろう。 五人の内、ファッションがルイズを気遣う。 「ルイズさん、すごく元気がないわね。どうしたの?」 彼女たちに本当のところを言っても、どうしようもあるまい。ルイズは曖昧に答える。 「さっき、わたしの力じゃどうしようもないことに直面してね……。もうどうしたらいいか 分からないの……。わたしには、何も出来ない……」 それを聞いた塚本は、何を思ったか、唐突にその場で逆立ちをした。 「よっと!」 「えッ? 急にどうしたの……?」 呆気にとられたルイズが問うと、塚本は答えた。 「こうしてると、地球を支えてる気分になるんだ。地球をしょって立つ!」 突飛な発言にルイズが目をパチクリしている内に、塚本が足を下ろして立ち上がり、ルイズを諭した。 「僕は以前、登校拒否をしてたんだ。もう何もかもが嫌な、どうも出来ない気分だった。 でもそんな時に矢的先生がこうやって元気づけてくれたんだよ。地球を背負うことに比べたら、 どんなことも難しいことじゃないんだって」 「ヤマト先生……?」 「僕たちの担任の先生ですよ」 博士に教えてもらって、ルイズは思い出す。魔法学院にはいないほどの、熱心で生徒想いな 教師であることがよく伝わってくる先生。情熱に溢れている、という点ではコルベールを思い出させる。 続いてスーパーが言った。 「矢的先生、こんなこともよく言うんだ。『一所懸命になれ』って」 「イッショケンメイ?」 「人には一生、命を懸けてやらねばならないことがある。その大きな目的を達するためには、 その人が今いるところで、今やっていることに最大を尽くす。そういうことが必要なんだって」 『一所懸命』の教えに、ルイズの伏しがちな目が少し開かれた。 「ルイズさんが何をしようとしてるのかは知らないけど、全力を尽くしたらきっと何かが変わる。 僕はそう思うよ」 「ルイズさんが良ければ、僕たち相談に乗りますからね」 「私、同じ女の子としてルイズさんのこと応援するわ! がんばって!」 「あぁッ! みんな俺の言いたいこと全部言っちゃってさぁ。ルイズさん、俺も応援するぜ!」 「ということですのでルイズさん、わたくしども一同、心より応援をしております! それでは、お達者でー!」 塚本、博士、ファッション、スーパー、そして落語の順にルイズを励まし、五人は去っていった。 彼らのお陰で、絶望の淵にあったルイズの心は、気がつけばいくばくか軽くなっていた。 「へへッ、なかなか気持ちのいい小僧どもじゃねえか。娘っ子もそう思わねえか?」 突然、特定の者だけが使う自分への呼び名が聞こえた。 「えッ!? 今の声……今の呼び方! まさかッ!」 驚いたルイズは声の元を探り、その結果、ポケットからあるものを引っ張り出した。 才人が使用しているのと同タイプの通信端末。それから、かのデルフリンガーの声が 発せられていたのだった。 「デルフ! どうしてここに……? というかあんた、ツーシンタンマツになってるわよ!?」 「何だ、今の俺ぁそんな姿になってんのか」 デルフリンガーは、自分の姿に気がついてなかったようだ。 「俺も相棒と娘っ子のことが心配になってね、おまえさんの後にあのブシの娘っ子を説得して、 こっちに送ってもらったんだ。今の姿は、この世界に合わせた結果さね。この世界じゃ、剣の ままじゃ目立ってしょうがねえみてえだしよ」 「……そう。でも来てくれたこと、嬉しいわ」 実際、デルフリンガーがこの夢の世界まで追って来てくれたことは、これ以上ないほどの ルイズの心の助けとなった。味方がいないと思われた世界で、自分を知っている者が側にいると いうのがこんなにも嬉しいことだとは。 「で、早速だがちっこいの、いやサキュバスのことだ。娘っ子、また随分と追い詰められてたじゃねえか」 どうやらデルフリンガーは、リシュと相対した時点で既にポケットの中に隠れていたようだ。 それで事情は分かっているらしい。 「だが実際のとこは、どうにも出来ない訳じゃあなさそうだぜ」 「え! それってどういうこと!? ちゃんと説明しなさい!」 意外なところから光明を見せられ、ルイズは若干焦って尋ね返した。 「ちょっと落ち着けっての。いいか? サキュバスはあんなこと言ってたが、本当にこの世界を 自由に出来る訳じゃねえ。恐らく、世界の設定というか状況を決められるだけで、個々の人間の 意識を完全に操れる訳じゃあない」 「で、でも、怪獣を操ってたし、さっきわたしだって……」 「そいつは姿を変えてのごまかしを、記憶を操った結果と誤認させただけのトリックだよ。 角と翼っていう印象に残る部分を消しときゃ、意外と人って分からなくなるもんだぜ」 さすがは六千年も生きたインテリジェンスソード。含蓄がある。 「怪獣の方も、ここに行けとかの大雑把な暗示しか掛けられねえはずさ。じゃなきゃ、わざわざ 彼女になるくらい相棒を気に入ってんのなら、相棒が変身して飛び出した段階で怪獣を退かせてるはずだろ」 「確かに……ゼロはイコールサイトだものね。危険な目には遭わせないはずだわ」 「何より、さっきの奴らみてえな娘っ子に味方する奴をこの世界に作るはずがねえ。余興って 言葉も、結局は嘘さ。惑わされんな」 デルフリンガーの言う通りだ。あそこまで脅迫してきた後で、夢の登場人物を使って自分を 励ます訳などない。 「それともう一つ、ウチュウ人がちょいと妙なことを口走ってたじゃねえか」 「妙なこと? それって何?」 「怪獣を紹介する時、夢の中に確かな実体を持つなんて変に念押ししてただろ。それだと他のもん、 たとえばサキュバスの力が幻みてえじゃねえか」 「あッ、なるほど……!」 デルフリンガーの慧眼に感心するルイズ。ナックル星人は、ルイズを確かに殺せるという意味で 言ったのだろうが、それが裏目に出て、こうしてデルフリンガーにサキュバスの能力のカラクリを 気づかせることとなった。 「つまり、サキュバスはあくまで夢をコントロールできるだけで、この夢の世界の本当の主は 相棒なのさ。相棒の腕にブレスレットがしたまんまなのも、サキュバスの限界を示してるね。 夢の魔法じゃあ、一つになってる魂と魂を切り離すことは出来ない。結局夢ってのは、見てる 本人と現実には敵わねえのさ」 「ということは、サイトが現実の記憶を取り戻せば、リシュはこの夢の支配者じゃなくなるってことね! そうすればゼロも復活して、勝ちの目が見えてくる……!」 「そういうこった。……だが、そのための時間はあんまり掛けられねえ。分かるだろ?」 固い表情でうなずくルイズ。いざルイズが才人の目を覚まさせようとしたら、リシュとナックル星人が 黙っているはずがない。インキュラスも、才人の夢の産物ではないので、才人の状態に関係なくルイズに 危害を加えられる。それらの妨害をかいくぐるためには、なるべく時間を掛けずに才人を覚醒させる他ない。 「って簡単に言うけれど、実際にはどうすればいいのよ。“虚無”は詠唱に時間がかかるし……」 「方法があるとすりゃあ、相棒のガンダールヴの力を呼び覚ますことだ。要するに相棒の感情を 揺り動かすってことだな」 「感情を揺り動かすって……短い時間の中で、どうやって? 剣を握らせれば簡単だけど、 この世界にはないわ。あんたも今はちっさいタンマツだし……」 「それくらいはそっちで考えてほしいとこだがね。まぁ手っ取り早い方法を挙げるなら、 キスするとかだろうね」 「き、き、キスぅぅぅ!?」 思わず真っ赤になるルイズ。全くデルフリンガーは何てこと言うのか。デリカシーはないのかと憤る。 しかし、何も才人とキスをするのは初めてではない。恥ずかしくない訳でもないが…… リシュに才人の唇を奪われたままというのも何だか癪だ。それにいざとなったら手段を選んでいる 余裕はないだろう。 実際キスするかどうかは別として、現実世界では皆が待っているのだ。ルイズは、明日には 決着をつけるという意気込みを固めたのだった。 ルイズに散々脅しを掛けた後、リシュは廊下を歩いていたら、ある人物から呼びかけられた。 「リシュ、少しいいかな」 「……ヤマト先生」 矢的猛。リシュのクラス……つまり才人の担任の教師。リシュは少々警戒する。 というのも、彼を含めた一部の人物は、才人の記憶を覗き見たリシュにとっても未知の部分が 多いからだ。彼らについて、才人の記憶から得られた情報が妙に少ない。夢の世界に怪獣が出現 し続けたのも、リシュの仕業ではない。どういう訳か、勝手に出てきてしまっていたのだ。才人が ハルケギニア外から来た未知の異邦人だから、自分の力でも制御し切れないのか……。 そういうことなので、この矢的がどういう行動に出るのか今一つ判別し難い。それ故に警戒心だった。 「リシュ、君が平賀とつき合ってるのは僕も知ってるが……変な言い方だが、それは正しいことなんだろうか?」 実際、矢的はリシュの行いの核心を突くようなことを言ってきた。 「……どういうことですか?」 「先生が生徒を疑うなんてあるまじきことだが……君たちの関係はどうも不自然な感じがする。 リシュ、君が平賀を自分の方向へ誘導してるようだ。本当に愛し合ってるなら、立場は対等の はずだろう?」 「……」 何とも鋭い人物だ。面倒だ、と内心舌打ちするリシュ。いなかったことにしてしまえたら いいのだが……あまり下手に夢の世界を変更すると、才人が現実の記憶を取り戻すかもしれない。 そうなったら全てが水の泡だ。 「それに……リシュ、君は何だか、いつもどこか悲しそうな目をしてる」 「!!」 「君が今のままではいけないって、先生思うんだ。君が抱えているものについて、先生に 話してもらえないだろうか。きっと君の力に……」 「もういいですッ!」 熱心に説く矢的だが、リシュはひどく気分を害してそれを振り払った。 「先生にそんなことを言われる筋合いなんて、ありませんから。余計なお世話です。もうあたしたちの ことは放っておいて下さい。さよならッ!」 一方的に言いつけ、リシュは憤然と矢的に背を向け立ち去っていった。 その背中を、矢的は心配そうな、それでいて何かを決心したかのような表情で見つめていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9060.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十話「目覚めよルイズ」 用心棒怪獣ブラックキング 宇宙ロボット キングジョー 暗殺宇宙人ナックル星人 登場 トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えた日、トリステインに国家存亡に 関わるほどの危機が降りかかった。クロムウェルに化けたナックル星人の傀儡となった アルビオン艦隊が、ナックルの大軍団とともに攻め入ってきたのだ。侵略部隊はラ・ロシェールから タルブ村に侵入し、暴虐を振るい出した。タルブ村の人々は、怪獣と宇宙人の脅威に なす術なく逃げ惑うばかり。 それに立ち上がらないウルトラマンゼロではない。タルブ村に駆けつけた才人とルイズは、 カプセル怪獣の力を借りてシエスタたちタルブ村の人々を救出。そして才人がゼロに変身し、 ナックルの軍勢に立ち向かう。初めは数の暴力で危機に陥ったが、ちょうどその時に、 過去のハルケギニアに迷い込んで長らく機能停止状態だったジャンボットが復活。 ミラーナイトも戦列に加わって、形勢は逆転となった。 しかし、ナックル星人は余裕の態度を崩さない。大量の円盤群と、ブラックキング、キングジョーを 既に戦場に出していて、まだ何か戦力を隠しているのか? ウルティメイトフォースゼロ、頑張れ! タルブの、そしてハルケギニア全土の未来は君たちの肩に懸かっているのだ! ナックル星人の配下たちと対峙しているゼロは、ブラックキングへと狙いを定めて向き直る。 『俺はブラックキングの相手をする! ジャンボットはキングジョー、ミラーナイトは円盤を 片づけてくれ!』 『承知した!』 『お気をつけて!』 ゼロがブラックキングの方向へ駆け出していくと、残った二人は彼の指示に従う。ジャンボットが キングジョーへ向けて走っていき、ミラーナイトはその場に留まって円盤群の漂う上空を見上げた。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは向かってくるゼロへ熱線を吐き出した。ゼロは左に身体をずらして熱線をかわし、 ゼロスラッガーを投擲する。 『ぜりゃぁッ!』 空中を切り裂いて飛んでいくふた振りの宇宙ブーメラン。だがどちらも、ブラックキングの腕に弾き返された。 『ちッ。やっぱり、俺の技を研究して、俺を倒すために訓練されてやがるな』 頭にゼロスラッガーを戻して舌打ちするゼロ。ブラックキングは直接戦闘能力があまり優れていない ナックル星人の用心棒に値する怪獣であり、基本的な能力も高いが、ナックル星人によってその力を 効率良く引き出せるように調教されている。地球侵略時に駆り出された個体は、その時地球を守っていた ウルトラマンジャックの技の対策を徹底的に仕込まれたことで、ジャックの技をことごとくはねのけた。 このブラックキングの力と、もう一つのある「おぞましい武器」によってナックル星人は、 ジャックを一度は完全に破ったことがあるのだ。それほどに恐ろしい侵略者なのである。 『だが、ちょっと研究されたくらいで手も足も出なくなるようじゃ、俺はレオからぶっ飛ばされちまうぜ! でりゃあああッ!』 だがゼロは、筋力が特に強力なブラックキングに対し、あえて肉弾戦を挑みかかる! 「グアアアアァァァァ!」 ゼロのパンチを見切って防ぎ、豪腕を側頭部に叩きつけようとするブラックキング。普通なら、 凶器のような打撲が飛んでくるとなったら、避けようと考えて身を引くことだろう。 しかしゼロは反対に、自分から飛び込んでいった。前腕を差し込むことで、速度の乗っていない 腕のひと振りを食い止めることに成功する。 『はッ! だらぁッ!』 そして空いている右腕で顔面にチョップを入れてひるませ、その流れで首にも手刀を入れた。 悶絶したブラックキングの腹部に横拳が決めて、数歩たじろがせた。その後もゼロはぶつかっていくように 打撃を入れていくことで、ブラックキングを追い詰めていく。 どうしてゼロは怪力のブラックキングを恐れずに肉弾戦を挑めるのか、それについて少々説明しよう。 そもそもゼロは、宇宙警備隊の訓練生時代で既に戦闘術で優秀な成績を出す、才能あふれる戦士の卵だった。 しかしそれ故に慢心した彼は、より強い力を求めて「光の国の禁忌」に手を出そうとした。そのせいで 光の国を追放され、荒廃した大地のみの星でウルトラマンレオから延々と辛い修行を課されるようになった、 苦い過去がある。 この時の修行は、レオ相手に限りなく実戦に近い模擬戦を繰り返すというものだったが、 自分の力量に自信のあったゼロは長いことレオに一撃も入れることが出来なかった。 テクターギアという拘束具を身に着けさせられていたこともあるが、一番の理由はレオが 「小手先の技に頼っているから」だと語った。技に頼れば、心に隙が生じる。見せかけの強さに おぼれていたゼロの動きは、レオに全て読まれてしまったのだった。 そしてゼロは修行の末に、心から生まれる「本当の強さ」を学んだ。その強さが「勇気」を生み出し、 どんなに恐ろしく見える敵にも立ち向かえる力と技を与える。どれだけ訓練されようと所詮は 「小手先の技」しか扱えないブラックキングが、ゼロの「勇気」を上回ることは出来ない。何より、 タルブ村の人々の命を背負うゼロが、心で負けることなどありえない! 一方で、ジャンボットもキングジョー相手に肉弾戦を繰り広げていた。 『むぅんッ!』 ジャンボットは文字通り鉄拳をキングジョーの胸部に打ち込む。しかしキングジョーは びくともしないで、腕をわきわき動かす。 『むッ、頑丈だな。しかし、動きは全く遅いぞ!』 敵の装甲の強固さを一撃で読み取ったジャンボットだが、それでもボクサーよろしくラッシュを 繰り出すことで、どんどんと押し込む。キングジョーも猛ラッシュを受けて踏みとどまるのは難しく、 後退させられていく。 これが生物なら、鉄板に何発も拳を入れていたら、傷つくのは攻撃する側だろう。しかし ジャンボットもロボットで、エスメラルダの技術の粋で造り出された機体。頑強さなら、 キングジョーに引けをとっていない。それどころか、俊敏さでは大きく水を開けている。 攻撃速度では追いつけないキングジョーは、両目からの怪光線を発射した。インファイトを 仕掛けているジャンボットが回避することは難しい。 『ふッ!』 しかしジャンボットは、軽く首を傾けるという最小の動作で光線をかわした。光線は彼の顔 スレスレを横切っていき、地面に着弾する。 『とうッ!』 直後にジャンボットのカウンターのパンチが炸裂し、キングジョーは数歩よろめいて下がる。 ジャンボットもまた、鋼鉄の頭脳の中に確かな「勇気」を持っている。そのために、恐怖の中に 飛び込みながら戦える力があるのだ。キングジョーも恐怖を感じてはいないが、それは心がないだけのこと。 心がないキングジョーは単調な攻撃しか出来ないので、ジャンボットには勝ることが出来ないのだ。 『はぁッ!』 円盤群を相手に回すミラーナイトは、当然のように善戦をしていた。ディフェンスミラーを 大量に張ってタルブ村を覆うことで、円盤の光線を全てはね返す。光線程度しか武器を持たない 相手だったら、鏡を作ることが得意技のミラーナイトは非常に相性がいいのだ。 ここまでは、ゼロたちが優勢である。三人の奮闘に避難したタルブ村の人々も大歓声を上げている。 だが、敵もこのままやられっぱなしではいなかった。 『まずは一機!』 ミラーナイトが円盤の一機に狙いを定めて、ミラーナイフを放とうと腕を振り上げた時、 その肩に熱線が命中したのだ。 『なッ!? 今のは怪獣の攻撃……!?』 驚きを隠せないミラーナイト。何故なら、ブラックキングは今もゼロが圧倒しているからだ。 「グアアアアァァァァ!」 しかし、いつの間にか彼の近くにブラックキングが接近してきていた。つまり二体目だ。 『まだいたのか! ならばそちらを先に……』 「グアアアアァァァァ!」 攻撃目標を二体目に変更しようとした矢先に、また別方向からブラックキングが現れて咆哮を上げた。 『何!? 三体目……』 「グアアアアァァァァ!」 『い、いや、四体目だ!』 気がつけば、ミラーナイトは三体のブラックキングに囲まれていた。 「グアアアアァァァァ!」 『な、何! こっちにも!』 それで終わりではなかった。最初のブラックキングと戦っているゼロの方にももう一体出現し、 敵の加勢に回る。 その時、新たな気配を感じ取ってふと空を見上げるゼロ。その方角からは、キングジョーを 構成する四機編成の円盤が、計四隊も飛来してきたのだ。内二隊がゼロの周囲でキングジョーに合体し、 残る半分はジャンボットの方に回る。 『何ぃ!? 一気に敵の数が……五倍に!』 ブラックキング、キングジョーともに五体になったことに、ジャンボットが思わず叫んだ。 先日はゴルドンが同時に二体出現したが、これはその比ではなかった。 『クッハハハハハ! 見たか! 奴らめ、相当驚いてるぞ!』 旗艦の円盤の中で、ナックル星人が哄笑を上げた。当然、ブラックキングとキングジョーの増援は 彼の仕業である。ウルトラマンゼロに確実に復讐するために、持てる戦力を全て投入したのだ。 しかしあのブラックキングとキングジョーの軍団は、元々ゼロ対策で用意したものではない。 実は、宇宙人連合の仲間たちを、ハルケギニアを侵略してから排除するために密かに 持ち込んでいたものなのだ。侵略が達成されれば、そのままだったら領土を連合で 分割することになる。だがナックル星人はその全てを独占するために、仲間たちを出し抜く 目的で独自の戦力を確保していたのだ。 テンペラー星人とザラブ星人がいがみ合った際に、団結を説いたナックル星人。しかし裏では、 自分が裏切る気でいたのだ。この厚顔無恥な行為を平然と行う卑劣さが、ナックル星人の もう一つの「武器」なのだ。 そしてその「武器」による計略は、これで終わりではなかった。 『はッ! 数を増やせば勝てるなんて発想の貧困さには、全く呆れ返るぜ!』 ゼロは四方を取り囲むブラックキング二体、キングジョー二体に臆することなく言い放った。 そしてウルティメイトブレスレットを叩き、ストロングコロナゼロに変身する。 『こいつで勝負だ! 行くぜッ!』 超パワーを持つストロングコロナなら、ブラックキングとキングジョーのカルテットにも 力負けすることはないだろう。四方からの熱線と光線を切り抜け、正面のブラックキングに殴りかかる。 『うらぁッ!』 だがその瞬間、彼の前に『レキシントン』号から発艦したワルド率いる竜騎士隊が割り込んできた。 『うおッ!? 危ねぇッ!』 咄嗟に拳を止めるゼロ。一方で殴り潰されそうになった竜騎士隊は、感謝するどころか ゼロに魔法の攻撃と火のブレスを浴びせかけてくる。 『ちッ。こいつらもナックル星人の手下って訳か……!』 怪獣と比べたらはるかに小さい彼らの攻撃は、ゼロには蚊が刺した程度のダメージにしかならないが、 それでも本来守るべき対象から攻撃されるのは気分のいいものではない。 しかし、ゼロは彼らを叩き落としたりはしない。今は敵に回っているとはいえ、ナックル星人に 利用されているだけなのだ。そんな彼らに手を出すことは出来ない。と言っても、ブラックキングとの 間に割って入られていては後ろに攻撃を加えられない。 『仕方ねぇ。ならあっちからだ!』 身体を左側に向けると、キングジョーに片方のゼロスラッガーを投擲する。 すると、竜騎士隊の半分が左側に回り、ゼロスラッガーの射線上に入った! 『何ぃッ!?』 すぐにゼロスラッガーの軌道を曲げ、頭に戻すゼロ。同時に、竜騎士隊の行動の目的が分かった。 一度目なら偶然かもしれないが、今のは明らかに故意だ。 『こいつら、自分たちから盾になってやがる!』 ジャンボットとミラーナイトの方も、同じ状況に陥っていた。竜騎士隊が纏わりついて、 迂闊に攻勢に出ることが出来ない。円盤群の方は、艦隊が盾になっている。 『くッ! そういう策略か、ナックル星人め……ぐおッ!』 戸惑うゼロたちに隙が生じ、熱線と光線を浴びせかけられてしまった。 「か、艦長、巨人どもは本当に我らに攻撃してこないのかね? もし万が一があったら、 我々に助かる見込みはないぞ」 『レキシントン』号の後甲板では、艦隊司令長官のサー・ジョンストンがボーウッドに 青ざめた顔で問いかけた。彼は本来政治家なので、実戦に命を懸ける覚悟など持ち合わせてないのだ。 その彼に対して、ボーウッドは無表情のまま、冷たい声で返答する。 「そう我々におっしゃったのは、クロムウェル皇帝です。あなたは皇帝のお言葉が信じられないので?」 「い、いや、そんなつもりではないぞ。しかしだな、兵が怖がってはいかんだろう。兵の動きの乱れは、 艦の乱れになるだろう」 怖がっているのは自分だろう、とボーウッドは心の中で侮蔑すると、ジョンストンの言葉を 無視して兵たちに命令を下すのを続行した。 彼らがクロムウェル=ナックル星人から受けた命令は、それまでの常識では到底考えられない内容だった。 「我々に敵対する巨人たちが現れたら、身を張って怪獣と円盤の盾になれ」ということ、その一点を厳重に 命じたのだ。曰く、巨人たちはハルケギニアの人間に攻撃することはないから、命の危険は心配しなくていい、と。 確かにその通り、彼らはゼロたちから攻撃されない。しかし、万一のことがあるとは、 クロムウェルは考えなかったのか? そんなはずがないだろう。要するにボーウッドたちは、 捨て駒の肉壁にされているのだ。そのことを、クロムウェルに尻尾を振るしか能のない ジョンストンたちは気づいてもいない。ボーウッドは余計に彼らを軽蔑する。 同時に彼は、この作戦が名誉も何もない、それどころか恥知らずもいいところの卑劣極まりないもので あることも理解していた。良心につけ込み、無抵抗の相手をいたぶるなど、ゴロツキのやることだ。おまけに 自分たちを、兵士どころか人間扱いすらしていない。それを平然と提案したクロムウェルが、どんな力を 持っていようと、人の上に立つべき人間ではないことは明白だ。 しかし、ボーウッドは良くも悪くも徹底した軍人なのだ。それが分かっていながら、クロムウェルの 命令に逆らうことは選ばない。人間らしい情も、作戦への内心の批判もかなぐり捨てて、ゼロたちへの 妨害行為を続ける。 (巨人たちは、確かに強い。本当の強さがある。しかし、それでも〝個人〟に過ぎない。 彼らでも、変えられない流れがここにあるのだ) ボーウッドは心の中でつぶやいた。 その頃、トリステイン王宮では会議場が大混乱に陥っていた。アルビオンの侵略の報は すぐに王宮に届けられたが、敵が怪獣たちと行軍していると知ると、その脅威を知る皆は そろって二の足を踏んだ。ゼロたちが現れたと聞くと一時的に安堵したが、彼らの苦戦を 耳にしてまた騒然となった。 「ゲルマニアに軍の派遣を要請しましょう!」 「しかし、今からでは到底間に合いませんぞ……」 「ではどうすると言うのか! アルビオンは卑劣極まる手段で、ウルトラマンゼロたちを 追い詰めているという! このままでは彼らの敗北は必至だ!」 「では、我らで怪獣たちと戦えと? 絶対に敵いませんぞ」 「ただでさえ戦力が足りない現状です。死にに行くのと同義でしょう」 誰も彼もが怒号を上げる中、会議室の上座で、本縫いが終わったばかりのウェディングドレス姿のままの アンリエッタは呆然としていた。しかし、不意に薬指に嵌めた『風』のルビーを見つめる。 このウェールズの形見を受け取った時、自分は誓ったのではないか? 愛するウェールズが、 勇敢に死んでいったというなら、自分は……勇敢に生きてみようと。 「きっと、苦戦など今の内だけでしょう。ウルトラマンの勝利を信じましょう」 怒号の中から上がったそのひと言で、アンリエッタは遂に立ち上がった。一斉に視線が 王女へ注がれる。アンリエッタは、わななく声で言い放った。 「今の発言、恥ずかしくないのですか」 「姫殿下?」 「わたくしたちと何の関わりのないはずのゼロたちが、戦っているのですよ! それなのに国を、 民を守る貴族のあなたたちは、何もしないで言い争ってばかり! 我らは、なんのために王族を、 貴族を名乗っているのですか? このような危急の際に、彼らを守るからこそ、君臨を 許されているのではないですか?」 誰も、何も言わなくなってしまった。アンリエッタは冷ややかな声で言った。 「あなたがたは、怖いだけでしょう。反撃をくわえたとして、勝ち目は薄い。敗戦後、責任を 取らされるであろう、反撃の計画者にはなりたくないというわけですね? ならば、わたくしが 率いましょう! あなたがたは、ここで会議を続けてなさい!」 アンリエッタはそのまま会議室を飛び出ていった。マザリーニや、何人もの貴族が、 それを押しとどめようとした。 「姫殿下! お輿入れの大事なお体ですぞ!」 「ええい! 走りにくい!」 アンリエッタはドレスの裾を膝上まで引きちぎると、宮廷の中庭に出た。 「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」 近衛の魔法衛士隊が集まり、聖獣ユニコーンが繋がれた王女の馬車が引かれてきた。アンリエッタは 馬車からユニコーンを一頭外すと、ひらりとその上に跨った。 「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊を集めなさい!」 ユニコーンが走り出すと、幻獣に騎乗した魔法衛士隊が口々に叫びながら続く。 「姫殿下に続け!」 「続け! 後れをとっては家名が泣くぞ!」 次々に中庭の貴族たちは駆け出していく。その様子をぼんやりと見つめたマザリーニは、 残っている者たちへ大声で告げる。 「おのおのがた! 馬へ! 姫殿下一人を行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」 アンリエッタが王宮から発った直後に、タルブ領主の館より数十人の竜騎士隊が飛び立ち、 戦場のタルブ村へ急行した。彼らは領主アストン伯の抱える騎士隊。アンリエッタ出陣の報に 感応されたアストン伯の命で、アルビオン軍へ突撃しに来たのだ。 「皆の者、ひるむな! 我らの敵は人間のアルビオン軍! 売国奴どもに、トリステイン騎士の 勇猛さを見せつけるのだ!」 騎士隊はゼロに纏わりつくワルドの部隊へと、体当たりするように突貫する。彼らの存在に 気づいたアルビオン竜騎士の一部がそちらに回り、交戦を始める。 ぶつかり合い、魔法を散らす両部隊。その場所はゼロとブラックキング一体の間なので、 今度はブラックキングがゼロへの熱線攻撃を踏みとどまった。 『何をやっている。ゴミどもが、我がブラックキングの邪魔をするんじゃない』 この事態に、ナックル星人は苛立ちを見せる。竜騎士を退かせようかと考えるが、すぐに考え直す。 『たかだか人間が一部、いなくなっても大局に変わりはあるまい』 「グアアアアァァァァ!」 ナックル星人の命令を受けたブラックキングが、熱線を放とうとする。その射線上には、 両軍の騎士たち。 『! やめろぉーッ!』 途端にゼロは駆け出し、騎士たちの前に回って、飛んできた熱線を背中で受け止めた。 『うああああぁぁぁッ!』 ゼロの悲鳴が上がり、カラータイマーが赤く点滅し始める。一方で、彼に助けられた騎士たちは 呆然とした顔になった。特にアルビオン側の竜騎士が驚きを禁じ得なかった。 「敵の俺たちを……助けてくれたのか……?」 そこに隊長のワルドが飛来してきて、命令を飛ばす。 「何を手を止めている。早く作戦を続行しろ」 部下たちは、思わず耳を疑った。 「しかし! 彼は私たちをかばったところで……!」 反抗した騎士は、ワルドの雷を受けて火竜ごと撃ち落とされた。 「馬鹿な奴らめ。それでも兵士か? 兵士は何も考えず、言われたことをしていればよいのだッ!」 叫ぶと、ワルドはゼロへ雷を飛ばす。 「おのれ、裏切り者ワルド! 貴様には恥がないのかぁーッ!」 怒り狂ったトリステイン騎士がワルドに魔法で攻撃するが、ワルドの風竜の動きについていけず、 一人ずつ撃ち落とされていく。ワルドの顔には、笑みすら浮かんでいる。 『この、野郎がぁぁぁ……!』 利用されていることを差し引いても非道なワルドにゼロが激怒を覚えるが、それでも 攻撃することだけは出来なかった。 トリステインの騎士隊がアルビオン軍の相手をしても、アルビオン軍も強大な軍勢。その力の前には ほとんど刃向かうことが出来ず、ゼロたちの劣勢に変化はなかった。 「このままじゃ、ゼロたちが負ける……。みんな死んじゃう……!」 南の森で、ゼロたちの窮地を見ていられなくなったルイズが、ギュッと『始祖の祈祷書』を握り締めた。 何とかしたいとは思うが、ただでさえルイズには何の力もない。今もまた、無力な己を呪う。 せめて祈ることだけはしようと、ポケットの中から『水』のルビーを取り出して指に嵌めた。 装飾品として扱うにはルビーが大きいし、アンリエッタに畏れ多いので、ミラーナイトと 会話したり呼び出したりする時くらいしか嵌めないが、今はこれに祈りを捧げる。 「姫さま、ゼロを、サイトを、みんなをお守りください……」 同時に、『始祖の祈祷書』にも祈ることにした。そしてページを開くと、途端に目を丸くした。 その手の中で、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り輝く。 「え……? 文章……?」 『始祖の祈祷書』は一切文字の書かれていない、白紙の本だった。何度も中身を見たからそれは確かだ。 しかし今は、光るページの中に古代のルーン文字で書かれた文章が書き連ねてあるのだ。ルイズは真面目に 授業を受けていたので、古代語を読むことが出来た。意味は、以下の通りだ。 序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの 系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、 かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が与えし零を 『虚無の系統』と名づけん。 「虚無の系統……!」 ルイズは唖然としながらも、思わずシエスタたちから密かに離れて、森の中で一人になった。 まさかの『虚無』の重大な手掛かりなので、迂闊に他の者に知られる訳にはいかないと判断したからだ。 続きに目を通すと、説明はもっと核心に入っていった。 これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を 取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を 消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の 読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は 『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 ルイズは何度か、自分が『虚無』の担い手ではないかと示唆された。アントラー戦では、 『青い石』の力もあったとはいえ絶大な威力の、未知の魔法を発動し、ワルドはどうしてだか 知らないが、自分に『虚無』の才能があると確信していた。 しかしまさか、こんな場所で、こんな時に、こんな方法で証明されるなんて思ってもみなかった。 こんな言葉も口から突いて出る。 「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの? この指輪がなくっちゃ『始祖の祈祷書』は 読めないんでしょ? その読み手とやらも……、注意書きの意味がないじゃないの」 同時に、可能性に気がつく。今なら、自分の手でゼロたちを助けられるのではないだろうか。 大怪獣アントラーを一撃で瀕死に追いやったあの大爆発、いやそれ以上の威力のものを、自在に発動できるのではないか。 奇跡を起こせるのではないか。 『ぐわあぁぁぁぁッ!』 ジャンボットは、三体のキングジョーに囲まれて殴り飛ばされ続けている。突き飛ばされる先に キングジョーがいて、絶え間なく痛めつけられる。 『ぐぅぅぅ……!』 ミラーナイトは、ブラックキングたちの殴打や熱線を浴び続け、息も絶え絶えになっている。 『くそぉッ! 離しやがれぇッ!』 ゼロは、両腕をブラックキングとキングジョーにひねり上げられて、身動きが取れなくなっていた。 『ハッハッハァッ! ざまぁないなぁウルトラマンゼロ! とどめは俺様が直々に刺してやろう!』 勝利を確信したナックル星人はとうとう自ら戦場に巨大化した姿で降り立ち、拳を鳴らしながら ゼロににじり寄る。 『くッ……おらぁッ!』 『げぶッ!?』 しかし接近したところで、足を振り上げたゼロの前蹴りを腹にもらって、思い切り吹っ飛んで倒れ込んだ。 『クソがッ! 往生際の悪い奴だ! そんなに苦しみながら死にたいのなら、望み通りにさせてやるッ!』 口汚く罵るナックル星人は臆病にも後ろに下がり、彼に代わってブラックキングとキングジョーが ゼロを締め上げる。 『ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 ゼロの絶叫が轟く。 ルイズは、迷いなく杖を抜くと、木々の間から見える、暴虐を尽くすゼロたちの敵を にらみつけながら掲げる。 そして、祈祷書に記されている初歩の初歩の初歩の魔法、『エクスプロージョン』の呪文を唱え始めた。 初めて口にする呪文なのに、とても滑らかに口から流れる。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ 詠唱しながら、ルイズの頭の中に自分が見てきた人々の顔が思い浮かぶ。魔法の才能がない、 と叱る両親に、姉に、先生。その度に悔しく、みじめな思いをした。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 級友たちも、自分を愚弄してばかりだった。どうして自分はみんなのように魔法を使えないのか。 何度も恨んだ。 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ しかしそれ以上に悔しく思い、自分を恨んだのは、才人とゼロ、自分を助けてくれる人たちの 危機に何もしてやれない時だ。彼らはいつも自分を置いて苦しみ、他の者たちが助ける。 自分は仲間じゃないみたいだ。何度も無力感に苛まれ、やるせない思いを募らせてきた。 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…… 長い詠唱ののち、呪文が完成した。ルイズの杖が振り下ろされる。 その瞬間、戦場の上空に、巨大な光の球があらわれた。まるで小型の太陽のような光を放つ、 その球は膨れ上がり、円盤を、戦艦を、怪獣を、戦場の者たちを包んだ。 そして、球が爆ぜた。呪文の主のルイズが目を覆うほどの光が輝いた。 光が晴れ、目を開くと、戦場の景色は一変していた。艦隊は炎上。円盤はひび割れ、ともに 地面に向かって墜落していく。 怪獣たちは、完全に動きを止めていた。キングジョーは火花を散らして気をつけの体勢になると、 後ろにまっすぐ倒れる。ブラックキングは、目の光を失って前のめりに倒れ込み、そのまま絶命した。 ルイズは理解した。アントラーを破ったあの爆発は、『虚無』の力のほんの一部でしかなかったのだ。 『な……な……な……!?』 ナックル星人はわななく声を上げながら、目を疑った。突然視界を塗り潰すような爆発が起きたかと思えば、 自分の軍隊が全滅していた。空を埋め尽くす円盤と戦艦は一隻残らず地に墜ち、アルビオンの竜騎士も一騎も 飛んでいない。キングジョーもブラックキングも斃れた。ナックル星人が無事なのは、単に離れていたから 爆発に呑まれなかっただけのことだ。 『何だ! 一体何が起こった!? 今の攻撃は何だ! こんな俺の手駒を一気に全滅させるほどの 威力の爆発など、見たことも聞いたこともない! 誰が何をしやがったんだ!』 目の前で起きたことを受け入れられず、ナックル星人はパニックになっていた。 『そして何より! その爆発に巻き込まれて、どうしてお前らだけ無事なんだぁウルトラマンゼロぉぉぉぉ!!』 ナックル星人の視界の先には、呆然と突っ立っているが、爆発による外傷を全く受けていない ストロングコロナゼロたちの姿があった。トリステインの騎士も、固まってはいるものの 何もなかったかのように宙に浮いている。 『今のは一体……まさか……』 ゼロだけは、爆発にかすかな心当たりがあった。しかしよく考える前に、ミラーナイトがこんなことを告げる。 『おや? ゼロ、あなたカラータイマーの色が戻ってますよ。どうやってエネルギーを回復したんですか?』 『え? あッ、ホントだ! 何でだ?』 ゼロの胸のカラータイマーは、さっきまで忙しなく点滅していたのに、今は青く輝いている。 だがカラータイマーはエネルギー残量と活動時間の限界を知らせるもの。自然に戻ることは ないはずなのだが……。 しかしゼロは元々思慮深い性質ではないのだ。考えても分からないことは、すぐに頭の片隅に追いやる。 『まぁ回復したのならそれでいいぜ! さぁナックル星人、覚悟はいいだろうな?』 パシン、と拳を鳴らすと、ナックル星人の方に向き直る。対するナックル星人は、戦力を 失ったことで完全に怖気づいていた。 「グアアアアァァァァ……」 だが、まだ動いているものが残っていた。最初に投入されたブラックキングだ。爆心地から 最も離れていたので、かろうじて生き延びていたのだ。しかし口からは黒い煙が立ち上り、 足取りはふらついている。どう見ても戦闘続行できる状態ではない。 『お、おぉ! 生き残りがいたか! ついているぞ! さぁ、早く俺を守れ! あいつらを倒してこい!』 それなのに、ナックル星人はいたわることすらせず、それどころかブラックキングの背後に回って 身を隠すように縮こまると、ゼロたちの方へ押し出した。完全に、自分の保身しか頭にない。 それなのに、ブラックキングは逆らおうともせずにゼロたちへ向かっていく。タルブ村を 焼き払った張本人だが、瀕死の状態で酷使される様は、憐憫すら覚える。 『ナックル星人、どこまでも救えない奴だな……!』 だからゼロは、せめてもの情けでとどめを刺してやることにした。ブラックキングに密着して 取り押さえると、高々と持ち上げて天高く投げ飛ばす。 「ゼアァッ!」 そして自分もジャンプすると、首に下から手刀を振るった。スライスハンドだ! ブラックキングの首が胴体から切り落とされ、両方とも地面に落下した。ブラックキングは 苦しむ間もなく絶命した。 『くッ、くそぉッ!』 最後のブラックキングが倒されると、ナックル星人はアルビオンの時のようになりふり構わずに 逃走しようとした。だが向けた背のすぐ後ろに着地したゼロに、がっしりと捕らえられる。 『お前みたいなのを、二度も逃がすかよ!』 『や、やめろぉー! 助けてくれぇー!』 『そいつは俺じゃなくて、お前が利用した奴らに頼んでみるんだなッ!』 どこまでも往生際の悪いナックル星人を、ゼロが許す訳がない。捕らえたまま再び跳躍し、 後ろへ投げ飛ばして頭から落下させる。必殺のウルトラ投げが決まった。 『が……が……』 まだ息のあるナックル星人だが、時間の問題だ。仰向けに倒れた彼の面前にゼロが降り立つと、 ナックル星人は震える手で指を突きつけた。 『馬鹿め! これで勝ったと思ってるのか!? この星にはヤプール人が来てるんだぞ!』 『何!? ヤプール人!!』 今際の捨て台詞だが、それを耳にした途端にゼロは、ミラーナイトとジャンボットも色めき立った。 『ど、どうせお前ら全員、ヤプールに始末されるんだ……はッ、ははははッ! はッ……!』 負け惜しみの途中で笑いが途切れ、ガクリと力を失うナックル星人。その身体が爆発し、 粉々に砕け散った。 『ヤプール……復活してやがったのか……!』 奇跡的な逆転勝利を収めたゼロたちだが、「ヤプール人」の言葉によって、その顔からは喜びが消し飛び、 険しい色だけが残った。 ナックル星人の軍勢を全て倒すと、ゼロたちは空に飛び立ってはるか彼方へ去っていった。 タルブ村の人々や、騎士たちは大歓声を上げて三人を見送った。彼らは『虚無』の爆発を、 ゼロたちの起こしたものと思っていた。 しかしそれは違うことを、才人はもちろん知っていた。南の森の中でゼロから戻った才人は、 すぐにルイズの下へ走っていく。 ルイズはその場に力なく座り込んでいた。何かあったのか、と慌てて近寄る才人。 「ルイズ、どうしたんだ! 大丈夫か!?」 と聞くと、ルイズはこちらへ顔を向けてきて、呆然とした表情で告げる。 「サイト、わたし……『虚無』の魔法に、目覚めちゃったみたい……」 その言葉に才人は一瞬驚きを見せ、すぐに納得した。やはり、先程の爆発はルイズの起こしたものだったのだ。 アントラーの時と同じ感覚がしたから、薄々勘付いていた。 「やったじゃんか。遂に魔法が使えるようになって」 喜びを分かち合おうとするが、ルイズはむしろ戸惑いを見せている。 「でも……あんまりにも突然のことで、実感がないわ。それに、これからのことを考えたら、ちょっと不安……」 『虚無の魔法』は、現代になっては完全に伝説。実在を信じていない者もいる。そんな中で、 自分が伝説の魔法を復活させたとなったら、周りを取り囲む環境がどう変わるか、予想もつかない。 未来への漠然とした不安を覚える。 しかし、それを察した才人が、気楽に言い放った。 「そんな難しく考えなくたっていいんじゃないか? なるようになるって」 「……そんな無責任な……」 呆れ返るルイズだが、すぐに思い直す。才人は、『ガンダールヴ』なんて伝説の使い魔で、 ウルトラマンとも一体化しているという状態なのに、それに変に気負わずに自然体でいる。 そういう能天気さも必要なのかもしれない、と考えた。 「サイトさーん!」 「あッ、シエスタ」 そうしていたら、自分たちを探しに来たシエスタが走ってきて、迷わず才人の胸に飛び込んだ。 才人とルイズは思わず目を剥く。 「シ、シエスタ!?」 「サイトさん、ご無事でよかったです! 私、サイトさんにたくさん聞きたいことがあるんですよ!」 「そ、それはいいけど、ちょっと、くっつきすぎじゃ……その、胸が当たって……おぉう」 シエスタが才人に抱きつく構図を見せつけられると、ルイズは途端に『爆発』使用後の 疲労感がどこかに吹き飛んで、メラメラと怒りを募らせた。その勢いで立ち上がり、 才人とシエスタに食って掛かる。 「こらー! ご主人様が疲れてるのに、あんたは何やってるのよ! そっちもとっとと離れなさいッ!」 「嫌ですー」 「んなッ!? メ、メイドの分際で生意気言うんじゃないわよ!!」 ギャアギャアわめき立てるルイズとシエスタの間に挟まれた才人の背で、鞘から少しだけ 刀身を出したデルフリンガーが、ボソッとつぶやいた。 「やれやれ。伝説の担い手だってことがはっきりわかったのに……、色恋の方が大事かね。 年頃の人間ってやつぁ、どうにもこうにも、救えねえね」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔